
though、through、tough。三つとも ough を含むのに、発音はそれぞれ大きく違います。
- though /ðoʊ/:〜だけれども
- through /θruː/:〜を通って
- tough /tʌf/:難しい、頑丈な
なぜ英語は、見たまま読めない単語が多いのでしょうか。ひとことで言えば、発音は時代とともに変わり続けた一方で、綴りは印刷や辞書によって比較的早く固定されたからです。さらに、英語が多くの言語から単語を借りてきたことや、語源を示すために古い文字が残されたことも関係しています。
この記事では、英語のスペルと発音が一致しにくい理由を、次の4つに分けて解説します。
- 発音が時代とともに変化した
- 印刷によって綴りが先に固定された
- 多くの言語から単語を借りた
- 語源や単語同士のつながりを綴りに残した
Contents
英語のスペルと発音は、完全に無関係ではない
最初に大切なのは、「英語の綴りには規則がない」という理解は正確ではないことです。cat、map、sit、stop のように、文字と音の対応から比較的読みやすい単語はたくさんあります。
ただし、英語は長い歴史の中で音が変わり、外国語の単語を大量に取り込み、綴りを一定の形へまとめてきました。その結果、基本的な傾向はあっても、例外が多い文字体系になっています。
英語の綴りを、現在の発音だけを写す「発音記号」と考えると不規則に見えます。しかし実際には、昔の発音、単語の来歴、語族上のつながりまで記録した歴史の地図でもあります。
しゅみすけ(大山俊輔)
スペルと発音が一致しない4つの理由

1.発音が時代とともに変化した
言葉の音は、世代を超えて少しずつ変化します。英語では、母音や子音が歴史の中で大きく変わりました。ところが、一度定着した綴りは、発音と同じ速さでは変わりません。
有名な例が、Great Vowel Shift(大母音推移) と呼ばれる長母音の大規模な変化です。おおむね中英語末期から初期近代英語にかけて、長母音の発音が段階的に変わりました。
たとえば name、time、house などの母音は、中英語期には現代とは異なる音でした。綴りが古い音の手掛かりを残す一方、実際の発音は先へ進んだため、現代の学習者には文字と音がずれて見えます。
2.印刷によって綴りが先に固定された
中世の英語には、同じ単語でも地域や書き手によってさまざまな綴りがありました。15世紀後半にイングランドで印刷が広がると、多くの読者へ同じ文章を届ける必要が生まれ、綴りは次第に標準化されていきました。
しかし、ちょうどその頃にも発音は変化していました。綴りが印刷物の中で固まり始めた後も、話し言葉の音は変わり続けたため、両者の距離が広がりました。
スペルが標準化された具体的な流れは「英語のスペルはどう決まった?綴りが標準化された歴史」で詳しく解説しています。
3.多くの言語から単語を借りた
英語の基本部分は西ゲルマン語群に属しますが、歴史の中で古ノルド語、フランス語、ラテン語、ギリシャ語などから大量の語彙を受け入れてきました。近代以降も、世界各地の言語から言葉を借りています。
借用語は、元の言語の綴りや発音の特徴をある程度保つ場合があります。そのため、一つの文字の並びに対して、英語本来の読み方だけでは説明しにくいパターンが増えました。
- ballet:フランス語由来で、語末のtを通常発音しない
- genre:フランス語由来の綴りと音を残す
- chorus:ギリシャ語由来で、chを /k/ と読む
- chef:フランス語由来で、chを /ʃ/ と読む
同じ ch でも、chair、chorus、chef で音が違うのは、単語の来歴が違うからです。
4.語源や単語同士のつながりを綴りに残した
発音されない文字が、語源や関連語を示している場合があります。
sign では g を発音しませんが、関連語の signal では g の音が現れます。muscle の c は通常発音されませんが、語源的な形を綴りに残しています。
また、学者や印刷業者がラテン語の語源を意識して文字を加えた例もあります。debt の b は発音しませんが、ラテン語 debitum とのつながりを示すために綴りへ戻されました。island の s も発音されません。
つまり、英語の綴りは「今どう聞こえるか」だけでなく、「どこから来た語なのか」「どの語と関係するのか」を表すことがあります。
なぜoughには読み方がたくさんある?
ough は、英語の綴りと発音のずれを象徴する文字列です。
- though /ðoʊ/
- through /θruː/
- tough /tʌf/
- thought /θɔːt/
- cough /kɒf/ または /kɔːf/
- plough /plaʊ/(米綴りはplow)
これらは、もともとの発音、後世の音変化、方言差などが異なる道筋をたどった結果です。同じ文字列が常に同じ音へ変化したわけではありません。
したがって、oughを一つの固定した音として覚えようとするより、単語ごと、あるいは同じ韻を持つ小さなグループで覚えるほうが現実的です。
黙字(silent letter)が残っている理由
現代英語では発音しないのに、綴りには残っている文字を silent letter(黙字) と呼びます。
- kn:know、knee、knife
- wr:write、wrong、wrist
- mb:lamb、climb、thumb
- gh:night、light、daughter
昔は発音されていた子音が、発音しやすさや音韻変化によって消えた一方、綴りは残りました。たとえば knight の k や gh にあたる音は、古い時代には現在より明確に発音されていました。
英語は日本語より「深い綴り」の言語
文字と音の対応が比較的一貫した仕組みを shallow orthography(浅い正書法)、一つの文字や綴りに複数の読み方があり、音との対応が複雑な仕組みを deep orthography(深い正書法) と表現することがあります。
英語は比較的「深い」側にあります。一方、ローマ字表記を入口にした日本人学習者は、アルファベットを見ると一字ずつ一定の音で読みたくなりがちです。しかし英語では、文字ではなく複数文字のまとまりや、単語全体の来歴を見る必要があります。
スペルから発音を予測するコツ
一文字ずつではなく、音のまとまりを見る
sh、ch、th、ph、tion、igh など、複数文字が一つの音や音のまとまりを表すことがあります。単語を一文字ずつ分解するだけでなく、よく現れる綴りのまとまりを覚えると予測しやすくなります。
同じ韻を持つ単語をまとめる
- light・night・right
- day・say・way
- book・look・cook
ただし food と good のような例外もあります。「原則を使って予測し、辞書の音声で確認する」という二段構えが安全です。
新しい単語はスペルと音声をセットで覚える
綴りだけを見て覚えると、自分の中で誤った読み方が定着しやすくなります。新しい単語に出会ったら、辞書の音声を聞き、アクセントの位置も確認しましょう。
- 単語を見る
- 音声を聞く
- 意味のある短い例文で口にする
- 翌日にもう一度、見ずに発音する
発音記号を完璧に読めなくても、音声を再生して真似することはできます。
読めない単語があっても、英会話は止めなくてよい
人名、地名、専門語は、英語話者でも読み方を確認することがあります。読めない語に出会ったら、次の表現が使えます。
- How do you pronounce this word?
この単語はどう発音しますか。 - How do you say this?
これはどう言いますか。 - Could you say it again slowly?
もう一度ゆっくり言ってもらえますか。 - I’m not sure how to pronounce it.
どう発音するのか自信がありません。
しゅみすけ(大山俊輔)
アメリカ英語とイギリス英語で発音が違う場合もある
同じ綴りでも、地域によって発音が異なる単語があります。たとえば schedule、tomato、either などです。これは「どちらかが間違い」というより、歴史的・地域的な変種です。
また、colour / color、centre / center のように、発音だけでなく綴りが異なる語もあります。自分が主に学ぶ変種を一つ決めつつ、別の形を見ても間違いと決めつけない姿勢が大切です。
関連:多言語からの借用が英語の語彙と綴りに与えた影響は「英語の外来語・借用語とは?」で詳しく解説しています。
まとめ
- 英語のスペルと発音のずれは、長い歴史の結果
- 大母音推移などで発音が変わっても、綴りは残った
- 印刷と辞書によって綴りが標準化された後も、音は変化した
- フランス語・ラテン語・ギリシャ語などの借用語が複数の読み方を持ち込んだ
- 発音しない文字が、語源や関連語を示す場合がある
- 新しい単語は、綴り・音声・例文をセットで覚える
英語のスペルは、現代の音だけを忠実に写す記号ではありません。昔の発音、多言語との接触、印刷の歴史、単語の家族関係を重ねて残した記録です。その背景を知ると、例外の山に見えた綴りにも理由があることが分かります。
アルファベット、綴り、語源、単語の作られ方をまとめて見渡したい方は「英語の文字・単語とは?」へ戻って全体像を確認できます。
参考:Encyclopaedia Britannica “Great Vowel Shift”、Merriam-Webster “Why Is English Spelling So Weird?”









