
日本語では「英語」、英語では English。あまりにも当たり前の名前ですが、なぜこの言語は English と呼ばれているのでしょうか。
Englandで話されていたからEnglishになった、と考えたくなります。ところが歴史をたどると、順番はそれほど単純ではありません。
Englishの源流は、5世紀ごろにブリテン島へ渡ったゲルマン系集団の一つ、アングル人(Angles)の名前です。古英語の Englisc は、もともと「アングル人の」「アングル人の言葉」を意味しました。そして興味深いことに、言語名としてのEnglishにつながる呼び名は、国名Englandが定着するより古いとされています。
この記事では、Angles、Englisc、English、Engla land、England、Anglo-がどのようにつながるのかを整理します。英語という言語の名前そのものに刻まれた、民族・土地・言語の歴史を見ていきましょう。
Contents
結論|Englishは「アングル人の言葉」が語源
| 言葉 | もとの意味 | 現在の意味 |
|---|---|---|
| Angles | ブリテン島へ渡ったゲルマン系集団の一つ | アングル人 |
| Englisc | アングル人の/アングル人の言葉 | Englishの古英語形 |
| English | イングランドの人々・言葉に関する | 英語、イングランドの |
| Engla land | アングル人たちの土地 | Englandの古い形 |
| England | アングル人の土地 | イングランド |
| Anglo- | ラテン語形Angliに由来 | 英国・英語との関係を表す結合形 |
一本の流れにすると、次のように整理できます。

つまり、EnglishとEnglandは別々に生まれた無関係な言葉ではありません。どちらもアングル人の名称を根に持つ、同じ語族の言葉です。
しゅみすけ(大山俊輔)
アングル人とは誰だったのか
ローマ帝国がブリテン島から撤退した後の5世紀ごろ、北海沿岸から複数のゲルマン系集団がブリテン島へ移住しました。伝統的に名前が挙げられるのが、次の三つです。
- Angles:アングル人
- Saxons:サクソン人
- Jutes:ジュート人
彼らは全員が一つの言葉を話していたわけではなく、互いに近い西ゲルマン系の方言を持っていました。それらがブリテン島で接触し、後に古英語と呼ばれる言語の基礎になりました。
アングル人の故地は、一般に現在のドイツ北部シュレースヴィヒ地方にあるアンゲルン半島周辺と関連づけられます。Anglesという名称自体も、この地名と結びついていると考えられています。
地名や民族名が釣り針・曲がった形を表す語と関係するという説も紹介されますが、語源の細部は確定していません。「半島が釣り針の形だったから」と断定するより、複数の説明があるものとして扱うのが安全です。
なぜサクソン人ではなく、アングル人の名前が残った?
ブリテン島へ渡った主な集団にはサクソン人やジュート人もいました。それなのに、言語名はSaxonishやJutishではなくEnglishになりました。なぜでしょうか。
これに対して、一つの単純な出来事だけを原因として示すことはできません。アングル人が広い地域に定住し、複数の有力な王国を形成したこと、ラテン語でブリテン島のゲルマン系住民全体を Angli と総称する用法が広まったことなどが重なったと考えられます。
8世紀の学者ベーダは、ラテン語で『イングランド教会史』を書き、ゲルマン系住民を広く「アングル人の民」に相当する名称で扱いました。名称は厳密な部族名の範囲を越え、複数の集団をまとめる呼び名へ広がっていきます。
古英語の Englisc も、字義通りには「アングル人の」でしたが、早い時代からアングル人だけでなく、サクソン人やジュート人を含むゲルマン系住民と、その近縁の言語全体を指す言葉として使われました。
これは現代の国民名や言語名にも見られる現象です。ある一地域・一集団の名前が、歴史の中でより大きな集団全体を表すようになることがあります。Englishも、そのような意味拡張を経験した名称です。
EngliscはどのようにEnglishになった?
古英語では「英語の」「イングランド人の」にあたる語を Englisc と書きました。現代のEnglishと比べると、語尾が -isc になっています。
この -isc は、現代英語の -ish につながるゲルマン系の形です。現在も次のような単語に残っています。
- English
- Scottish
- Irish
- Swedish
- Danish
- Spanish
Engliscの発音と綴りは中英語の時代に変化し、Englissh、Englishなどの形を経て、現在のEnglishへ落ち着きました。1066年のノルマン征服後には、アングロ・フランス語の形も影響を与えました。
Englishは現在、名詞として「英語」「イングランド人」、形容詞として「英語の」「イングランドの」を表します。ただし、現代のEnglish peopleは通常「イングランド人」を指し、British peopleはイギリス全体の人々を指すため、同じではありません。
Englandは「Anglesの土地」
England は、古英語の Engla land に由来します。
- Engla:Angles(アングル人たち)の
- land:土地
したがって、文字通りには「アングル人たちの土地」です。二語が結びつき、音や形が変化してEnglandになりました。
古英語時代には、住民集団を表す名称と、土地を表す名称が並行して使われていました。複数のアングロ・サクソン系王国が統合され、政治的な領域としてのイングランドが形を整えるにつれ、Englandも明確な国土名として定着していきました。
ここで重要なのは、次の三つを混同しないことです。
| 名称 | 指す範囲 |
|---|---|
| England | イングランド |
| Great Britain | イングランド・スコットランド・ウェールズがある島 |
| United Kingdom | イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドからなる国家 |
Englishという語は言語名として世界へ広がりましたが、地域を表す形容詞としては基本的にEnglandとの関係を示します。スコットランドのものはScottish、ウェールズのものはWelshです。
Englishという名前はEnglandより古い?
Oxford English Dictionaryの語源解説で指摘される興味深い点が、言語を表すEnglishという名称は、国を表すEnglandという名称より古いということです。
これは、先に近縁の言葉を話す人々が「Englisc」と総称され、その言葉もEngliscと呼ばれ、後に彼らの土地を表すEngla landが国土名として定着した、と考えると理解しやすくなります。
現代人は国境と国名を先に思い浮かべるため、「国名Englandから言語名Englishが派生した」と考えがちです。しかし中世初期の人々にとって、出発点は近代的な国家ではなく、どの民に属するか、どの言葉を話すかという集団の認識でした。
名前の順番を知ると、Englishは単なる教科名ではなく、北海を渡った人々の移動と、新しい共同体が形づくられていく過程を記録した言葉に見えてきます。
Anglo-とは?なぜEngland-ではない?
Anglo- は、「イングランド」「英国」「英語」との関係を表す結合形です。ラテン語でアングル人を表した Angli などの形に由来します。
ほかの国・言語を表す要素と組み合わせて、二者間の関係や複合的な文化を示します。
- Anglo-American:英米の、英国系アメリカ人の
- Anglo-French:英仏の、イングランドで使われたフランス語に関する
- Anglo-Japanese relations:日英関係
- Anglophone:英語を話す人・地域
ただしAnglo-が具体的にEnglandを指すのか、BritainやUnited Kingdom全体を広く指すのかは、単語と文脈によって異なります。たとえばAnglo-Japanese relationsは通常、狭い「イングランドと日本」ではなく「英国と日本」の関係を表します。
Anglo-Saxonとは?現代では注意も必要
Anglo-Saxon は歴史学・言語学では、ノルマン征服以前のイングランドのゲルマン系住民、その文化、時代、言語に関して使われてきました。「アングル人+サクソン人」という構成です。
ただし実際の住民はアングル人とサクソン人だけではなく、ジュート人を含む複数の集団から成り、地域差もありました。また現代の政治・人種的な文脈では別の含意を持つ場合があります。
言語については、現在の研究や辞書では Old English(古英語) という名称を使うのが一般的です。Anglo-Saxonは歴史的な時代や文化を表す語として残っていますが、誰がどの意味で使っているのかを文脈から確認する必要があります。
日本語の「英語」「英国」の「英」はどこから?
日本語の「英語」は、Englishの音を直接写した言葉ではありません。「英」は、Englandを表す漢字表記の一部から来ています。
近代以前から西洋の国名は漢字で音訳され、イギリスには「英吉利」などの表記が使われました。その先頭の「英」を取って、英国、英語、英文学、英会話といった言葉が作られました。
つまりEnglishと「英語」は、表面の音も文字も異なりますが、どちらも最終的にはアングル人の名称へつながっています。
| 日本語 | 成り立ち |
|---|---|
| 英語 | 「英吉利の言語」を省略した形 |
| 英国 | 「英吉利国」を省略した形 |
| 英文学 | English literatureに相当 |
| 英会話 | 英語による会話 |
現在の日本語では「英国」がUnited Kingdom全体を指すのが一般的です。この点でも、語源上のEnglandと、現代語としての「英国」の指す範囲は完全には一致しません。
しゅみすけ(大山俊輔)
よくある疑問
Englishは「Englandの言語」という意味ではないの?
現代的にはそう説明できます。ただし語源上は、EnglishもEnglandもアングル人の名称に由来し、言語名につながるEngliscの用法のほうが国名Englandの定着より古いとされます。
アメリカで話す英語もEnglishなのはなぜ?
北米へ渡った人々が、イングランドを中心に発達した英語を持ち込んだからです。その後アメリカ英語は独自に変化しましたが、同じ歴史的言語の変種なのでEnglishと呼ばれます。
EnglishとBritishは同じ?
同じではありません。EnglishはEnglandまたは英語に関する語、BritishはGreat BritainやUnited Kingdomに関する語として使われます。スコットランド人やウェールズ人はBritishであり得ますが、Englishとは限りません。
英語はアングル人だけが作ったの?
いいえ。名称はアングル人に由来しますが、古英語の形成にはサクソン人、ジュート人などの方言も関わりました。その後も古ノルド語、フランス語、ラテン語などとの接触によって現在の英語へ発達しました。
まとめ|Englishという名前は英語の最初の旅を伝えている
- Englishはアングル人(Angles)の名称に由来する
- 古英語Engliscは「アングル人の/アングル人の言葉」を表した
- Engliscはアングル人以外も含むゲルマン系住民と言語の総称へ広がった
- Englandは古英語Engla land、つまり「アングル人の土地」に由来する
- 言語名Englishにつながる名称は、国名Englandより古いとされる
- Anglo-もラテン語のAngliを通じて同じ根へつながる
- 日本語の「英語」の「英」も、Englandの漢字音訳を経て同じ源流へ戻る
Englishという一語は、北海沿岸にいた一つの集団の名前から始まり、複数の集団をまとめる言葉になり、やがて世界中で使われる言語名になりました。
その言語がどこで、どのように生まれたかは英語はどこから来た?英語の起源、系統上どの言語と親戚なのかは英語は何語族?ゲルマン語派との関係で詳しく解説しています。
英語そのものを俯瞰したい方へ:語族・起源・歴史・特徴・語彙・世界への広がりを一つの地図にまとめた「英語とは?」総合ガイドもあわせてご覧ください。
参考資料
- Oxford English Dictionary:English
- Online Etymology Dictionary:English
- Online Etymology Dictionary:England









