
happy、city、betterはいずれも二音節の語です。では、真ん中にある/p/や/t/は、前の音節の終わりでしょうか。それとも、次の音節の始まりでしょうか。
文字だけを見れば、hap-py、cit-y、bet-terのようにどこかへ線を引きたくなります。しかし、実際の英語の音では、その子音が前後二つの音節へ同時に関わっているように振る舞うことがあります。この考え方が両音節性(ambisyllabicity)です。
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両音節性とは、一つの子音が二つの音節にまたがること
音節には、始まりのオンセット、中心の核、終わりのコーダがあります。たとえばcatなら、/k/がオンセット、/æ/が核、/t/がコーダです。
ところが二音節語の中央では、子音の所属が一意に決まらないことがあります。両音節性という分析では、一つの子音が、前の音節のコーダであると同時に、次の音節のオンセットでもあると考えます。
英語ではとくに、アクセントのある短母音の後ろに一つの子音があり、その後ろにアクセントのない母音が続く環境で、この考え方が用いられてきました。
cityの/t/は前・後・両方のどれ?

cityの/t/を例にすると、主に三つの捉え方ができます。
- 前の音節に属する:cit-yのように/t/を第1音節の終わりと見る
- 次の音節に属する:ci-tyのように/t/を第2音節の始まりと見る
- 両方に属する:/t/が第1音節を閉じながら、第2音節も始めると見る
三つ目が両音節性です。これは「/t/を二回発音する」という意味ではありません。一つの/t/が、音節構造の上で左右両方へ結びついているという分析です。
なぜ一つの音節へ決めきれないのか
理由は、英語の音が二つの異なる条件を同時に示すからです。
前の短母音は、子音で閉じられたように振る舞う
英語の強勢のある短母音、たとえばhappyの/æ/、cityの/ɪ/、betterの/e/または/ɛ/は、一般に開いたまま終わる音節より、後ろの子音によって閉じられた音節に現れやすいと分析されます。そのため中央子音は、前の音節のコーダとして必要に見えます。
中央子音は、次の母音の始まりにも見える
一方、その子音の直後には弱い母音が続きます。英語では、母音の前に置ける子音を次の音節のオンセットへ回す傾向があります。そのため中央子音は、次の音節の始まりとしても自然です。
つまり、前の短母音を支えるには左へ、次の母音を始めるには右へ結びつく必要があります。両音節性は、この二つの性質を一つの構造で表そうとする考え方なのです。
しゅみすけ(大山俊輔)
happy:pは2文字でも、音が二つあるわけではない
happyにはpが二つ書かれています。しかし一般的な英語の発音では、日本語の「切符」のように、長く詰まった二重子音を発音するわけではありません。通常は一つの/p/です。
英語の子音字を重ねる綴りは、前の母音が短いことや語の形を示す役割を持つことがあります。したがって、hap-pyという文字上の分け方と、実際の音声構造は同じではありません。
/p/は第1音節の/æ/を閉じるように働きつつ、第2音節の弱い母音を始めます。これが両音節的な分析とよく合う例です。
city・better:アメリカ英語のフラップともつながる
アメリカ英語では、cityやbetterの/t/が、舌先を一度だけ軽く弾くフラップ [ɾ]として発音されやすくなります。この音は、日本語のラ行に少し似て聞こえるため、cityが「スィリー」、betterが「ベラー」のように聞こえることがあります。
フラップは、強勢のある音節と弱い音節の間という韻律環境で起こります。中央の子音を単純に前か後だけへ押し込むより、二つの音節の境目にまたがるものとして見ると、なぜこの位置で/t/の発音が変わるのかを捉えやすくなります。
/t/の帯気音・フラップ・声門閉鎖音については、英語の/t/は何種類ある?位置によって発音が変わる理由で詳しく解説しています。
音節の境界は、文字の切れ目ほど明確ではない
辞書では、語を音節へ分けるために点やハイフンが使われます。しかし、その線は必ずしも物理的に聞こえる「切れ目」ではありません。発話では舌・唇・声帯の動きが連続しており、一つの音が前後の両方へ影響します。
また、辞書は発音表示、語の分綴、改行のための文字分けなど、目的によって異なる境界を示すことがあります。辞書ごとに区切り方が違って見えても、ただちにどちらかが誤りとは限りません。
そもそものオンセット・核・コーダや、日本語のモーラとの違いは、中間親にあたる英語の音節とは?syllableの数え方・構造と日本語のモーラとの違いから読むと整理できます。
日本語では、なぜ音節の境界をはっきり感じやすいのか
日本語は「ハ・ピ」「シ・ティ」のように、かな一文字と一拍を対応させて捉えやすい言語です。学習者は英語でも、音を一つずつ日本語の拍へ置き直し、中央に明確な境界を作りたくなります。
しかし英語では、音節の大きさが均等ではありません。強い音節から弱い音節へ、中央子音を経由して運動が連続します。「前の音節を言い終えてから、次を新しく始める」というより、前を閉じる動作がそのまま次の始まりを兼ねることがあるのです。
実践面で、英語が一音ずつ途切れる感覚を減らしたい場合は、姉妹サイトbe-rize.comの英語が一音ずつ途切れる原因と音節・リズムの練習へ進むと、音節をまとまりで発音する練習につなげられます。
両音節性は「唯一の正解」ではなく、説明モデル
両音節性は、英語の短母音、子音の異音、音節境界をまとめて説明するために提案されてきた考え方です。一方、音韻論では「一つの子音を二つの音節へ所属させなくても、より大きな韻律構造で説明できる」という反対論もあります。
さらに、どの子音を両音節的と判断するかは、音の種類、アクセント、前の母音、つづり、方言、話者の直感によって変わることが研究で示されています。したがって、すべての英語話者の頭に同じ音節境界が一本引かれている、と考えるべきではありません。
両音節性の価値は、目に見えない境界を絶対化することではなく、中央子音が前後両方の発音現象へ関わることを理解しやすくする点にあります。
前回の音節主音的子音とは何が違う?
名前は似ていますが、扱っている問題は別です。
- 音節主音的子音:子音そのものが音節の中心・核になる
- 両音節性子音:子音が二つの音節の境界にまたがる
buttonのn̩やlittleのl̩では、子音が母音の代わりに音節核を担います。一方、happyの/p/やcityの/t/では、左右それぞれに母音があり、その間の子音が両方の音節へ関わります。前回の記事英語の音節主音的子音とは?button・little・rhythmの仕組みと比べると違いが明確です。
まとめ:英語の音節境界は「線」より「重なり」に近い
両音節性とは、happy・city・betterなどの中央子音を、前の音節の終わりであると同時に、次の音節の始まりでもあると捉える考え方です。
英語では、つづりの切れ目、辞書の区切り、実際の舌の動きが常に一対一で一致するわけではありません。真ん中の子音を左右どちらかへ無理に分配せず、二つの音節をつなぐ橋として見ると、短母音、フラップ、英語の滑らかなリズムが一つの仕組みとして見えてきます。








