
I saw him cross the street. には、saw と cross という二つの動詞があります。学校文法では「知覚動詞seeの後ろは目的語+原形不定詞」と習いますが、なぜ一つの文に動詞を二つ置けるのでしょうか。
鍵は、himがsawの目的語であると同時に、crossという次の動作の意味上の主語でもあることです。大きな文の中に、him cross the street(彼が道路を渡る)という「小さな出来事」が組み込まれています。
この記事では、知覚動詞・使役動詞・want型などを別々の暗記事項として扱いません。英語がなぜ「O+動詞」を使って出来事を入れ子にするのか、原形・-ing・to不定詞・過去分詞で見え方がどう変わるのかを、日本語と比較しながら考えます。
- 英語が目的語の後ろにもう一つの動詞を置ける理由
- Oが次の動作・状態の意味上の主語になる仕組み
- 原形・-ing・to不定詞・過去分詞が示す視点の違い
- 知覚・使役・希望に共通する「小さな出来事」の構造
- 日本語の節・助詞と英語の語順の違い
Contents
「動詞が2つ」ではなく、大きな出来事に小さな出来事が入っている
I saw him cross the street. の骨格を二つの層に分けると、次のようになります。
| 層 | まとまり | 表す出来事 |
|---|---|---|
| 外側 | I saw X | 私はXを見た |
| 内側 | him cross the street | 彼が道路を渡る |
外側の動詞sawから見ると、himは見た対象です。しかし内側の動詞crossから見ると、道路を渡る主体はhimです。一つの名詞が二つの層をつなぐ蝶番になっています。
英語学では、このようなOとその後ろの述語が作るまとまりを「小節(small clause)」として捉えることがあります。すべての文法理論が同じ分析を採るわけではありませんが、学習者にとっては「Oの後ろに単語を足した」のではなく、Oを主役とする小さな主語・述語関係があると見ると一貫性が見えます。
直前の記事英語はなぜ目的語の後ろに補語を置く?では、They made him happy. のhim = happyという関係を扱いました。今回のhim crossも同じ延長上にあり、Cが静的な性質ではなく「動き」になった形です。
Oは目的語であり、次の動作の「隠れた主語」でもある
次の例では、太字部分が内側の出来事です。
- I saw him cross the street.(彼が道路を渡るのを見た)
- She made me apologize.(彼女は私に謝らせた)
- We want you to stay.(私たちはあなたに残ってほしい)
- I found the door locked.(ドアが施錠されているのに気づいた)
himはcrossする人、meはapologizeする人、youはstayする人です。the doorはlockする側ではなくlockされる側ですが、いずれも後ろの述語が成立する対象です。
英文を前から読むと、聞き手はまず外側の動詞によって「見る・働きかける・望む・発見する」という大枠を受け取ります。続くOで内側の出来事の主役を確定し、その直後の動詞・分詞で主役が何をするか、どういう状態かを知ります。英語は外側の視点→内側の主役→内側の出来事という順で情報を開いていくのです。
しゅみすけ(大山俊輔)
原形・-ing・to不定詞・過去分詞は、小さな出来事の見せ方を変える
Oの後ろに置かれる形は同じではありません。その違いは単なる構文ルールではなく、内側の出来事をどの角度から見るかの違いです。

原形:動作を加工せず、一まとまりとして置く
I saw him cross the street. のcrossは、時制や人称を持たない原形です。話し手は「彼が道路を渡る」という出来事を、始まりから完了まで一まとまりとして知覚したように示します。
She made me apologize.でも、apologizeは独立した文の動詞ではありません。外側のmadeが時制を担い、内側では「私が謝る」という動作の中身だけを原形で差し込みます。英語が一つの節に時制を持つ動詞を原則一つ置く仕組みは、英語はなぜ一つの文に動詞を何個も置けない?定形・非定形動詞の仕組みともつながります。
-ing:動作の内部・途中へ視点を入れる
I saw him crossing the street.では、話し手が見たのは横断という出来事の進行中の場面です。渡り始めから渡り終わりまでを全て見たとは限りません。原形が出来事の輪郭を丸ごと示すのに対し、-ingは出来事を開き、その内部を見せます。
現在分詞が動作を「人や物の姿」に変える仕組みは、英語はなぜ分詞を使う?でさらに掘り下げています。
to do:まだ現実になっていない方向を示す
I want him to stay. のto stayは、話し手が望んでいる時点では未実現です。toは内側の主役himから、これから実現してほしいstayへ向かう方向を示します。
tell him to stay、expect him to win、allow him to enterでも同じです。命令・予想・許可という外側の態度は異なっても、Oを主役とする出来事をtoの先へ置く点は共通しています。
過去分詞:Oが受けた結果・完了状態を示す
I found the door locked.では、doorはlockする主体ではなく、施錠された状態にあります。過去分詞はOが何かを「する」場面ではなく、Oに働きかけが加わった結果の姿を示します。
I had my hair cut.でも、髪が切るのではなく切られる側です。日本語では「髪を切ってもらった」と人間関係や恩恵まで訳すことがありますが、英語の骨格がまず置いているのはmy hair = cutという対象と結果の関係です。
日本語は「彼が渡るのを」のように、関係を言葉で包む
日本語にも出来事の入れ子はあります。ただし、英語より境界を明示する傾向があります。
| 英語 | 日本語 | 関係の示し方 |
|---|---|---|
| I saw him cross. | 彼が渡るのを見た | 「が」で内側の主語、「の」で出来事を名詞化 |
| She made me apologize. | 彼女は私に謝らせた | 助詞「に」と使役の「せる」 |
| I want him to stay. | 彼に残ってほしい | 「に」と補助形容詞「ほしい」 |
| I found the door locked. | ドアが施錠されていると分かった | 小さな文を「と」で引用 |
日本語では「彼を渡る」とは言いません。外側の動詞seeにとっては対象でも、内側のcrossにとっては主語なので、「彼が渡る」と格を示し直します。そして「のを」「と」などで内側の出来事全体を外側の文へ接続します。
英語はhimという目的格を一度置き、その直後に述語を並べることで、二つの役割を一つの位置へ重ねます。日本語が助詞・使役形・引用形式で関係を明示するのに対し、英語は隣接と語順で階層を圧縮するのです。
なぜ知覚動詞と使役動詞ではtoが消えやすいのか
see him crossやmake him apologizeでは原形が直接続きますが、want him to stayではtoが必要です。この違いは、出来事との距離として見ると理解しやすくなります。
知覚では、話し手は出来事を直接、現実の場面として捉えています。使役では、主語の力がOの動作へ直接届きます。どちらも外側の出来事と内側の出来事の結び付きが強く、動作を原形のまま密着させます。
一方、want・expect・allow・tellなどは、希望・予想・許可・指示から実現する動作までに方向や距離があります。toはその橋渡しをします。これは例外の羅列ではなく、外側の動詞が内側の出来事をどれほど直接的に成立させるかという連続性です。
ただし、実際には動詞ごとの語法が固定しているため、意味だけで形を自由に選べるわけではありません。使役動詞make・have・let・getの具体的な違いは、姉妹サイトbe:RIZEの使役動詞とは?make・have・let・getで実践的に確認できます。
受動態になると、隠れていたtoが見えることがある
They made him apologize.を受動態にすると、He was made to apologize.となりtoが現れます。能動文ではhimが外側の目的語と内側の主役を兼ね、二つの出来事が密着していました。受動態ではhimがheとして外側の主語へ移動するため、to apologizeが独立した方向性を持つまとまりとして姿を現します。
「makeの受動態だけtoを付ける」と暗記しても使えますが、構造を見ると、能動文で圧縮されていた境界が受動態で見えやすくなったと考えられます。原形不定詞と受動態の具体的なルールや例文は、be:RIZEの原形不定詞とは?使役動詞・知覚動詞・受動態でtoが消える理由で整理しています。
O+動詞を見たら「誰がその動作をするか」を確かめる
英文を読むときは、動詞の形の名前を付ける前に、次の三点を見ると構造をつかみやすくなります。
- 外側の動詞は、知覚・使役・希望・発見など何を表すか
- 目的語Oは、後ろの動作をする側か、される側か
- 後ろの形は、動作全体・途中・未来方向・受けた結果のどれを見せるか
I heard her sing.ならherがsingする側で、歌う出来事を一まとまりとして聞きました。I heard my name called.ならmy nameはcallされる側で、呼ばれた出来事を捉えています。原形か過去分詞かは、用語以前にOと動作の向きから決まります。
しゅみすけ(大山俊輔)
まとめ:英語は語順によって出来事を入れ子にする
英語が目的語の後ろに動詞を置けるのは、その動詞が外側の文と同じ資格で並んでいるからではありません。Oを主役とする小さな出来事を、知覚・使役・希望・発見という大きな出来事の中へ組み込むためです。
- Oは外側の動詞の目的語であり、内側の動作・状態の意味上の主語でもある
- 原形は出来事全体、-ingは途中、to doは実現への方向、過去分詞は受けた結果を見せる
- 日本語は「が・に・のを・と・させる」などで二つの層を明示する
- 英語はOと述語を隣り合わせ、語順で小さな主語・述語関係を圧縮する
- 知覚動詞・使役動詞・want型は、すべて「大きな出来事+小さな出来事」としてつながる
この見方を持つと、原形不定詞・現在分詞・過去分詞・to不定詞が別々の文法単元ではなくなります。英語はまず「誰についての小さな出来事か」をOで示し、その直後に動作や状態の見え方を置く言語なのです。








