
see it、go out、I asked。どれも単語の境目で「母音+母音」が並びます。しかし、実際の英語では、その境目がいつも同じように発音されるわけではありません。
see itではYのような音、go outではWのような音が聞こえることがあります。I askedでは、話し方によって喉が一瞬閉じ、「I|asked」と境目が立つこともあります。ゆっくり丁寧に話せば、二つの母音をそれぞれ保つこともできます。
このように、隣り合う二つの母音が別々の音節に属している状態を、音声学・音韻論では母音連続(vowel hiatus)と呼びます。この記事では、英語が母音と母音の境目をどのように処理するのかを、渡り音・声門閉鎖・母音の分離という三つの方向から見ていきます。
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英語の母音連続(hiatus)とは?
hiatusは本来「切れ目・間隙」を表す言葉です。音声学では、二つの母音が隣り合いながら、それぞれ別の音節として発音される状態を指します。
- 単語をまたぐ母音連続:see it、go out、I agree、the answer
- 一語内の母音連続:re-enter、cooperate、react、reality
大切なのは、文字として母音字が二つ並んでいるかではなく、音として二つの母音核が続いているかです。たとえばteamのeaは通常一つの母音として発音されるため、hiatusではありません。一方、re-enterではreとenterの境目に二つの母音があり、それぞれが別の音節を作ります。
英語の二重母音も口の形が動きますが、二重母音は原則として一音節です。hiatusでは母音が二つの音節に分かれます。この違いが、音の数え方やリズムにも関わります。
英語は母音と母音の境目を三通りに処理する

英語の母音連続には、一つの絶対的な読み方があるわけではありません。同じ語句でも、アクセント、話す速さ、強調、語境界をどれだけ意識するかによって、次の三つの方向へ変化します。
- 渡り音/j/・/w/で滑らかにつなぐ
- 声門閉鎖音[ʔ]で境界を立てる
- 二つの母音を保ったまま並べる
つまり「英語では母音を必ずつなげる」「必ず声門閉鎖を入れる」といった単純な規則ではありません。話者は、流れを保ちたいのか、境目を明確にしたいのかに応じて発音を調整しています。
1.渡り音/j/・/w/で滑らかにつなぐ
前の母音の終点が/j/や/w/の口の構えに近いと、次の母音へ移る途中に短い橋が生まれます。
- /j/に近い渡り:see it、I agree、he asked
- /w/に近い渡り:go out、do it、two apples
これは文字にyやwを付け加えて読んでいるのではありません。舌や唇をいったん初期位置へ戻さず、次の母音へ連続的に動かした結果です。詳しい仕組みは、前回の英語の渡り音/j/・/w/とは?で解説しています。
渡り音は、単語境界を目立たせず、一つのリズム群として滑らかに流したいときに現れやすくなります。ただし、橋の音を強く発音しすぎると、see yetやgo woutのように、別の子音を意図的に挿入した印象になります。
2.声門閉鎖音[ʔ]で境界を立てる
二つ目の方法は、次の母音の直前で声帯を一瞬閉じることです。このとき生まれる小さな「喉の栓」が声門閉鎖音(glottal stop)[ʔ]です。
日本語でも「あっ!」と驚いたときや、母音で始まる語を強く言い直すとき、喉が瞬間的に閉じることがあります。英語でも、母音で始まる語を明確に開始したいときに同じ仕組みが使われます。
- I asked—not answered.
- the answer
- re-enter
- She is absolutely right.
とくに対比・強調・言い直しでは、次の語の始まりをはっきり示すために声門閉鎖が現れやすくなります。一方、速く気軽な会話では弱まったり、渡り音に近い滑らかな接続になったりします。
なお、ここで扱う声門閉鎖は「母音で始まる語の開始を明確にする働き」です。buttonやcertainで/t/が声門化する現象については、英語のtはなぜ違って聞こえる?で別に整理しています。同じ[ʔ]でも、現れる理由と音韻上の役割が異なります。
しゅみすけ(大山俊輔)
3.二つの母音を保ったまま並べる
渡り音や明確な声門閉鎖が目立たず、二つの母音がそのまま連続する場合もあります。ここでは声を完全に止める必要はありませんが、母音ごとの舌・唇の目標位置と音節の拍を保ちます。
- cooperate
- reality
- chaos
- naive
- re-enact
一語内では、語源的な境界や接辞の境界が母音の分離を保つことがあります。cooperateは、話者や速度によって母音の実現が変わりますが、単純な一つの長母音になるわけではありません。re-enterのハイフンは綴りの上でも境界を示し、reとenterを別々に認識しやすくしています。
また、丁寧な朗読、歌唱、辞書的な発音、未知語を慎重に読む場面では、日常会話よりも母音の境界が明瞭になりやすくなります。
なぜ英語は母音連続をそのままにしないことがある?
母音は、肺から出た空気が口の中で大きく遮られずに流れる音です。そのため母音から母音へ移るとき、明確な閉鎖がなければ音の境界は曖昧になります。
英語は、強勢のある音節を中心に弱い音節をまとめ、一つのリズム群として発音する傾向があります。その流れを優先すれば渡り音が生まれます。反対に、語の始まり・強調・対比を示したければ声門閉鎖が便利です。
- 流れを優先:境界を弱め、渡り音で接続する
- 明瞭さを優先:声門閉鎖や短い区切りで境界を立てる
- 音節を優先:二つの母音の質とタイミングを保つ
この選択は、英語の音声変化とconnected speech全体に共通します。英語の音は単語帳の中で固定されているのではなく、前後の音、リズム、意味の焦点に応じて姿を変えます。
日本語の母音連続とは何が違う?
日本語にも「あおい」「家へ」「会う」のような母音連続があります。ただし、日本語はモーラを比較的均等に保ちやすく、各母音の時間的な輪郭が意識されやすい言語です。
英語では強勢がリズムの中心になるため、弱い語境界は縮まりやすく、母音間の移動が/j/や/w/として聞こえたり、逆に強調箇所では声門閉鎖によって境界が強くなったりします。
日本語話者が英語を一語ずつ丁寧に区切ると、すべての語頭母音に同じ強さの立ち上がりを与え、リズムが細切れになりがちです。逆に、すべてをリエゾンさせようとすると、意味上残したい境界まで消えてしまいます。
日本語との違いは「英語には境目がない」ことではありません。英語では、境目の強さが意味とリズムに応じて伸縮することです。
母音連続を聞き分けるときの観察ポイント
発音記号だけを追うより、実際の音で次の三点を観察すると仕組みが見えやすくなります。
- 声が途切れず、舌や唇が滑っているか——/j/・/w/系の渡り
- 喉で小さく音が切れているか——声門閉鎖
- 二つの母音にそれぞれ音節の山があるか——hiatusの保持
同じ話者でも、同じ語句を文脈を変えて言えば処理が変わります。I asked.を普通に言った場合と、I asked, not answered.と訂正した場合を比べると、後者ではaskedの立ち上がりが強くなる可能性があります。
実践練習へ進む場合は、姉妹サイトbe-rize.comの英語のリエゾンは暗記しなくてもいい?音が自然につながる仕組みもあわせて参照してください。b-cafe.netでは「なぜそう聞こえるのか」を音の構造から、be-rize.comでは聞き取り・発音練習への落とし込みを中心に扱っています。
まとめ:英語の母音連続は「境界をどう見せるか」の選択
英語の母音連続(vowel hiatus)は、二つの母音が隣り合い、それぞれ別の音節に属する状態です。その境界は一つの固定ルールで処理されるのではありません。
- 滑らかに流すと、/j/・/w/のような渡り音が生まれる
- 語頭や強調を明確にすると、声門閉鎖音[ʔ]が現れることがある
- 丁寧さや音節構造を保つと、二つの母音が別々に聞こえる
つながる発音と区切る発音は、どちらか一方が正解なのではありません。話者は「この部分を一つの流れとして聞かせるか」「ここから新しい語・強調が始まると示すか」を、喉・舌・唇の小さな動きで表現しています。
母音の境界に耳を向けると、英語の発音は文字を一語ずつ読み上げたものではなく、意味のまとまりを音の流れへ変換する仕組みであることが見えてきます。








