「英語を母語とする人が多い国」と聞くと、アメリカやイギリス、オーストラリアなどが思い浮かぶでしょう。
ただし、ここには少し注意が必要です。英語が公用語であることと、国民の多くが英語を母語としていることは同じではありません。また、各国の国勢調査も「母語」「家庭で使う言語」「主な言語」など、異なる質問で言語状況を調べています。
この記事では、英語を幼少期から身につける人が多い代表的な国を紹介しながら、「ネイティブの国」という見方だけでは見落としやすい多言語社会の実像も解説します。
先に結論:英語を母語・第一言語・家庭の主要言語とする人が多い代表例は、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランドです。ただし、国ごとに統計の定義が異なり、国内にも大きな地域差があります。
Contents
そもそも「母語」とは?
母語とは、一般に幼いころ家庭や周囲の人との生活の中で自然に身につけた言語を指します。英語では mother tongue や native language と呼ばれます。
よく似た言葉に第一言語(first language)があります。多くの場合は母語と重なりますが、成長後に最もよく使う言語、最も得意な言語という意味で使われることもあります。
さらに、国勢調査では次のような質問が使われます。
- 母語:幼少期に最初に学び、現在も理解している言語
- 家庭で使う言語:現在、自宅で日常的に使っている言語
- 主な言語:本人が日常生活の中心と考える言語
- 英語だけを家庭で話すか:家庭内でほかの言語も使うかを調べる質問
これらは似ていますが、同じ数字にはなりません。たとえば日本語を母語として育ち、移住後は家庭でも仕事でも英語を主に使う人がいます。反対に、英語を自在に話せても、家庭ではスペイン語や中国語を使う人もいます。

しゅみすけ(大山俊輔)
英語を母語とする人が多い代表的な国一覧
以下は、英語が母語、家庭の主要言語、または日常の主な言語になっている人が多い代表的な国です。統計の質問が国ごとに違うため、数値は単純な順位ではなく、その国の言語状況を知る目安として見てください。
| 国 | 公的統計から見える英語の位置 | 読み取りのポイント |
|---|---|---|
| アメリカ | 5歳以上の78.3%が家庭で英語だけを使用(2018~2022年ACS) | 英語が圧倒的に広い一方、スペイン語など多くの言語が暮らしの中で使われる |
| イギリス | イングランドとウェールズでは91.1%が英語(ウェールズでは英語またはウェールズ語)を主な言語と回答(2021年) | 国内4地域で歴史と言語事情が異なり、ウェールズ語やスコットランド・ゲール語なども存在する |
| カナダ | 英語を母語とする人は54.9%(2021年国勢調査) | 国全体では英語母語話者が過半数だが、フランス語圏のケベック州など地域差が大きい |
| オーストラリア | 家庭で英語だけを使う人は72.0%(2021年国勢調査) | 移民由来の言語と先住民諸語を含む多言語社会 |
| ニュージーランド | 英語が最も広く話される言語。2018年国勢調査では95.4%が英語を話せると回答 | 「話せる人」の割合であり母語率ではない。マオリ語やニュージーランド手話も重要 |
| アイルランド | 日常生活では英語が広く使われる | アイルランド語も国のアイデンティティーを支える言語。制度上の地位と日常使用を分けて考える必要がある |
国別に見る英語母語話者と多言語社会
アメリカ:英語が多数派でも「英語だけの国」ではない
アメリカは、世界で最も多くの英語母語話者が暮らす国として知られています。米国国勢調査局によると、2018~2022年のアメリカ地域社会調査では、5歳以上の78.3%が家庭で英語だけを話すと回答しました。
一方で、約5人に1人は家庭で英語以外の言語も使います。スペイン語、中国語、タガログ語、ベトナム語、アラビア語など、移民の歴史を反映した多様な言語が地域社会を形づくっています。
なお、「家庭で英語だけを話す」は「英語が母語」と完全に同じではありません。二つ以上の言語を母語同様に使う人や、家庭では別の言語を使いながら英語も第一言語として使う人がいるからです。
イギリス:英語発祥の地にも複数の言語がある
英語はイングランドで成立し、長い歴史の中で世界へ広がりました。そのためイギリスは「英語の本場」と見られますが、イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドから成る連合王国です。
イングランドとウェールズの2021年国勢調査では、住民の91.1%が英語(ウェールズでは英語またはウェールズ語)を主な言語としていました。英語以外を主な言語とする人の多くも、英語を十分またはある程度話せると回答しています。
ウェールズ語、スコットランド・ゲール語、アイルランド語、スコッツなども、地域の文化と歴史を支える大切な言語です。さらに都市部では移民コミュニティーの言語も数多く使われています。
カナダ:英語母語話者が過半数でも、地域差が大きい
カナダの2021年国勢調査では、英語を母語とする人は54.9%でした。また、「最初の公用語」として英語を使う人は75.5%です。この二つの数字の差からも、母語と社会で主に使う言語が必ずしも一致しないことが分かります。
カナダでは英語とフランス語が連邦レベルの公用語です。英語が優勢な州が多い一方、ケベック州ではフランス語が中心です。ニューブランズウィック州は公式に英仏二言語を採用し、先住民諸語や移民の言語も使われています。
「カナダ人だから英語ネイティブ」と一括りにできないのは、この地域差と個人差があるためです。
オーストラリア:英語中心の多文化・多言語社会
オーストラリアの2021年国勢調査では、家庭で英語だけを使う人が72.0%でした。つまり英語が暮らしの中心である人が多数派ですが、約4人に1人の家庭では別の言語も使われています。
中国語、アラビア語、ベトナム語、パンジャブ語などの話者が多く、移民によって言語の多様性が広がってきました。また、アボリジナルおよびトレス海峡諸島民の言語もオーストラリアの重要な言語遺産です。
オーストラリア英語には独自の発音や語彙がありますが、それは「間違った英語」ではありません。地域と社会の中で育った、れっきとした英語の一変種です。
ニュージーランド:英語に加え、マオリ語と手話も大切
ニュージーランドでは英語が最も広く使われています。2018年国勢調査では95.4%が英語を話せると回答しました。ただし、これは英語を母語とする割合ではなく、英語を話す能力についての数字です。
マオリ語(te reo Māori)とニュージーランド手話も公的に重要な地位を持ちます。サモア語、ヒンディー語、中国語なども使われ、太平洋地域やアジアとのつながりが言語風景に表れています。
ニュージーランド英語には独特の母音や語彙があり、マオリ語由来の言葉も日常的に登場します。
アイルランド:英語の日常使用とアイルランド語の文化的地位
アイルランドの日常生活では英語が広く使われ、多くの人にとって母語または第一言語です。一方、アイルランド語は国の歴史と文化を象徴する重要な言語です。
2022年国勢調査では、3歳以上でアイルランド語を話せると答えた人が約187万人いました。ただし、学校の外で毎日使う人はその一部です。また、約75万人が英語・アイルランド語以外の言語を家庭で話していました。
「話せる言語」「日常的に使う言語」「母語」を区別する必要性が、特によく見える国です。
英語母語話者が多い国と、英語公用語国はどう違う?
英語を公用語とする国は、政府、裁判、教育、行政などで英語を正式に使う国です。しかし、住民の多くが家庭で英語を最初に覚えるとは限りません。
たとえばインド、ナイジェリア、シンガポール、フィリピン、南アフリカなどでは、英語が行政・教育・異なる言語集団をつなぐ共通語として大きな役割を担います。一方、多くの人は別の言語を母語としています。
| 見方 | 何を表す? | 例 |
|---|---|---|
| 英語母語話者が多い国 | 英語を幼少期から身につける人が多数または非常に多い | アメリカ、イギリス、オーストラリアなど |
| 英語公用語国 | 国の制度や公的場面で英語を使う | インド、ナイジェリア、シンガポールなども含む |
| 英語を第二言語として使う国 | 母語以外に、教育・仕事・共通語として英語を使う | 国や人により状況は幅広い |
英語が世界でどう使われているかを大きく把握したい場合は、英語圏とは?英語が話されている国一覧もあわせて読むと、母語・公用語・第二言語の関係が整理できます。
「英語ネイティブの国」という言い方で注意したいこと
国籍だけでは母語は決まらない
アメリカ国籍を持つ人の母語がスペイン語であることも、イギリスで育った人が英語とポーランド語を同時に身につけることもあります。日本で育った人が日本語と英語のバイリンガルになることもあります。
ネイティブかどうかは、パスポートではなく、その人がどのように言語を身につけてきたかに関わります。
二つ以上の母語を持つ人もいる
家庭内で親が別々の言語を使ったり、家庭と地域で異なる言語を使ったりする子どもは、二つ以上の言語を幼少期から自然に身につけることがあります。「母語は必ず一つ」という前提も、現実には当てはまりません。
英語には複数の正当な種類がある
イギリス英語、アメリカ英語、カナダ英語、オーストラリア英語、ニュージーランド英語、アイルランド英語などには、発音、語彙、綴り、表現の違いがあります。さらに、国内でも地域・世代・民族・社会集団によって話し方は変わります。
一つのアクセントだけを「本物のネイティブ英語」と考える必要はありません。英語は世界の各地で、話者の暮らしや歴史と結びつきながら発展しています。
しゅみすけ(大山俊輔)
旅行や留学では「国」より「地域と場面」を見る
英語母語話者が多い国でも、どこでも全員が英語だけを使うわけではありません。大都市、移民の多い地域、先住民言語が根づく地域、観光地、大学などで言語環境は変わります。
- アメリカ:州や都市によってスペイン語などの使用割合が大きく異なる
- カナダ:ケベック州ではフランス語が中心。地域によって英仏の比重が変わる
- イギリス:4つの構成国と各都市でアクセントや語彙が大きく異なる
- オーストラリア・ニュージーランド:英語が広く通じる一方、多文化社会と先住民文化への理解も大切
- アイルランド:通常は英語で困らないが、地名や文化の中にアイルランド語が深く残る
地域ごとの国名・国籍・言語・首都を英語で確認するなら、北アメリカの国名・国籍・言語・首都、オセアニアの国名・国籍・言語・首都も参考になります。
よくある質問
英語を母語とする人が最も多い国は?
総数で見るとアメリカです。人口規模が大きく、家庭で英語を中心に使う人が多数を占めます。ただし、英語以外の言語を家庭で使う人も数千万人規模で暮らしています。
カナダ人は全員英語ネイティブ?
いいえ。英語母語話者は国全体では過半数ですが、フランス語母語話者、先住民諸語や移民由来の言語を母語とする人もいます。特にケベック州ではフランス語が中心です。
インドやフィリピンは英語ネイティブの国?
英語を幼少期から身につける人もいますが、国民の多数が英語を母語とする国とは言いにくいでしょう。英語は教育、行政、ビジネス、異なる母語の人同士のコミュニケーションで重要な役割を担っています。
英語ネイティブの人数は正確に数えられる?
世界共通の定義と調査方法がないため、完全に正確な人数を出すのは困難です。複数の母語を持つ人、母語と現在の主要言語が異なる人もいます。統計を見るときは、何を質問した数字なのかを確認することが大切です。
まとめ:英語母語話者が多い国も、多言語社会である
英語を母語・第一言語・家庭の主要言語とする人が多い代表的な国は、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランドです。
しかし、どの国にも英語以外を母語とする人が暮らし、地域や家庭によって使われる言語は異なります。また、英語を公用語とする国のすべてで、英語母語話者が多数派とは限りません。
「どこの国の人か」だけでなく、どの言語を、いつ、どこで、どのように使っているかを見ると、世界の英語の姿がより正確に見えてきます。
主な参考資料
- U.S. Census Bureau: Language Use in the United States
- Office for National Statistics: Language, England and Wales, Census 2021
- Statistics Canada: Mother tongue and first official language spoken
- Australian Bureau of Statistics: 2021 Census QuickStats
- Stats NZ: 2018 Census totals by topic
- Central Statistics Office Ireland: Census 2022 Migration and diversity









