
英語は「I read a book.」、日本語は「私は本を読む」。使っている要素はほぼ同じなのに、動詞の位置が違います。
言語学では、主語をS(Subject)、動詞をV(Verb)、目的語をO(Object)とし、その基本的な並び方によって言語をSVO・SOV・VSOなどに分類します。
理論上は6通りありますが、世界の言語に均等に分布しているわけではありません。SOVとSVOが圧倒的に多く、目的語が主語より先に来るOVS・OSVは非常にまれです。さらに、語順は文の中だけの問題ではなく、前置詞・後置詞など、ほかの要素の並び方とも統計的に連動します。
この記事の要点
英語は基本的にSVO、日本語はSOVです。ただし「基本語順」は、すべての文が必ずその順序になるという意味ではありません。無標の平叙文で最も自然・一般的になる順序を中心にした類型です。
Contents
S・V・Oは何を表す?
| 記号 | 意味 | 「犬が猫を追った」の要素 |
|---|---|---|
| S | Subject(主語) | 犬が |
| V | Verb(動詞) | 追った |
| O | Object(目的語) | 猫を |
この3要素は、誰・何が行為をし、その行為が何へ向かうかを示します。それぞれの順番を並べ替えると、次の6タイプができます。
| 語順 | 日本語式の直訳イメージ | 代表例 |
|---|---|---|
| SOV | 犬が 猫を 追った | 日本語、韓国語、ヒンディー語、トルコ語、ペルシャ語 |
| SVO | 犬が 追った 猫を | 英語、中国語、フランス語、スペイン語、スワヒリ語 |
| VSO | 追った 犬が 猫を | ウェールズ語、アイルランド語、古典アラビア語など |
| VOS | 追った 猫を 犬が | マダガスカル語など |
| OVS | 猫を 追った 犬が | ヒシュカリヤナ語など |
| OSV | 猫を 犬が 追った | 非常に少数 |
言語名は代表的な基本語順を示したもので、実際の文では別の順序も使われます。また、アラビア語のように時代・変種・文脈によってVSOとSVOの双方が現れる言語もあります。
最も多いのはSOVとSVO
World Atlas of Language Structures(WALS)の標本では、SOVが564言語、SVOが488言語、VSOが95言語と分類されています。標本の取り方や「優勢な語順」の判定によって数字は変わり得ますが、SOVとSVOが二大タイプであることは明瞭です。
一方、VOS・OVS・OSVは少数で、優勢な語順を一つに決めにくい言語もあります。したがって「世界の言語は必ず6箱のどれかにきれいに収まる」のではなく、6分類は多様な言語を比較するための強力な入口だと考えるのが適切です。
SOVとは?日本語の基本語順
SOVでは、動詞が主語と目的語の後ろに置かれます。
私は(S) 英語を(O) 学びます(V)。
日本語では助詞が名詞の役割を示すため、語順を動かしても関係を追いやすい場合があります。
- 私は英語を学びます。
- 英語を、私は学びます。
後者には「英語を」という対比・強調が加わりますが、助詞の「は」「を」によって誰が何を学ぶかは分かります。ただし、自由にどんな順番でも同じ自然さになるわけではありません。
SVOとは?英語の基本語順
SVOでは、主語の直後に動詞が来て、その後ろに目的語を置きます。
I(S) study(V) English(O).
英語は格を示す語尾変化が古英語の時代から大きく減ったため、現代英語では語順が文法関係を示す重要な手段になっています。
- The dog chased the cat.:犬が猫を追った
- The cat chased the dog.:猫が犬を追った
単語が同じでも位置を交換すれば、行為者と対象が逆になります。英語学習で語順が厳しく感じられるのは、順番そのものが「誰が何をしたか」を担っているからです。
しゅみすけ(大山俊輔)
VSOとは?動詞から始まる言語
VSOは、動詞が最初に来て、その後ろに主語、目的語が続くタイプです。日本語の感覚で直訳すれば「追った・犬が・猫を」のようになります。
ウェールズ語やアイルランド語などが代表例です。ただし、VSO言語でもSVOが代替語順として現れることは珍しくありません。WALSが紹介するGreenbergの一般化でも、優勢なVSOを持つ言語はSVOを代替語順として許す傾向が指摘されています。
なぜSがOより先に来る語順が多いのか
6タイプのうち、SOV・SVO・VSOはすべてSがOより前にあります。世界の言語では、この3タイプが多数を占めます。
理由を一つに断定することはできませんが、行為者を対象より早く示す方が、聞き手が出来事の構造を処理しやすい可能性や、談話で主語が既知の情報になりやすいことなどが議論されています。実験研究でも、柔軟な語順を持つ複数の言語でSO順がOS順より処理・産出上好まれるという報告があります。
ただし、これは「人間は必ず主語から考える」という絶対法則ではありません。OVSやOSVも実在し、格標識や文脈など、語順以外の仕組みで役割を明確にできます。
語順は前置詞・後置詞とも連動する

語順類型論のおもしろさは、S・V・Oの並びから、ほかの並び方にも一定の傾向が見えることです。
- OV型:後置詞を使いやすい——日本語の「東京で」「友達と」
- VO型:前置詞を使いやすい——英語の「in Tokyo」「with a friend」
WALSの1,142言語の標本では、OV+後置詞が472、VO+前置詞が456でした。対してOV+前置詞は14、VO+後置詞は42です。例外はありますが、非常に強い相関です。
説明としては、文法的な中心とその補部を一貫した方向へ並べるため、処理しやすい構造が選ばれるという考え方や、前置詞・後置詞が歴史的に動詞や名詞から発達した過程を反映するという考え方があります。現在も単一の理由だけで説明されているわけではありません。
語順が同じなら、言語も近いのか
いいえ。語順の類型と語族は別の分類です。
日本語、韓国語、ヒンディー語、トルコ語はいずれもSOV型ですが、同じ語族に属するわけではありません。英語、中国語、スワヒリ語もSVO型ですが、系統は別です。
語族は「歴史的にどの祖先から分かれたか」を扱い、語順類型は「現在どのような構造を持つか」を比較します。人間にたとえれば、語族は家系図、類型は体格・服装・生活様式の似方を見るような違いです。
この区別は語族とは?でも詳しく解説しています。
基本語順は変化することがある
言語の語順は永久に固定されるものではありません。英語の祖先に当たる古英語は、現代英語より豊かな格変化を持ち、語順にも大きな幅がありました。格語尾が弱まり、名詞の役割を形だけで判別しにくくなるにつれて、SVO語順の重要性が高まりました。
また、言語接触によって周辺言語の構造的特徴を受けることもあります。語順が変化した直後には、動詞と目的語の順序と前置詞・後置詞の型が一致しないなど、古い特徴と新しい特徴が共存する場合があります。
英語学習者に役立つ3つの見方
1.単語ではなくS・V・Oの役割を見る
英文を日本語訳だけで覚えず、誰がS、何をするがV、その対象がOかを確認します。
2.最初にS+Vを口にする
I think…、She said…、We need…のように骨格を先に出し、情報を後ろへ足します。
3.前置詞も語順の一部として見る
in Tokyoを「東京で」という一語対応だけで覚えず、英語は関係を先に示し、その後ろに名詞を置くと理解します。
しゅみすけ(大山俊輔)
まとめ|語順は言語の設計を映す
S・V・Oの基本語順にはSOV・SVO・VSO・VOS・OVS・OSVの6タイプがあります。世界ではSOVとSVOが特に多く、日本語はSOV、英語はSVOです。
ただし、基本語順は絶対の固定順ではなく、その言語で最も一般的な文の組み立て方です。そして語順は、前置詞・後置詞など、ほかの要素の配置とも統計的に連動しています。
英語を学ぶときは、日本語の単語を英語へ置き換えてから並べ替えるのではなく、S→V→Oという英語の順路から直接組み立てる。この発想が、訳す英語から話す英語へ移る土台になります。
日本語と英語の構造差全体は、日本語と英語はなぜこんなに違う?もあわせてご覧ください。










