
We’re having dinner at seven. と言われたら、あなたも夕食に参加するのでしょうか。それとも、話し手の家族や同僚だけの予定を聞かされているのでしょうか。
英語の we は、日本語の「私たち」と同じく、聞き手を含むことも含まないこともあります。しかし世界には、この二つを別の代名詞として文法的に区別する言語があります。
その区別が、包括形(inclusive)と除外形(exclusive)です。専門的には両者をまとめて包括性・クルーシビティ(clusivity)と呼びます。
この記事の結論
包括形は「私+あなた(+ほかの人)」、除外形は「私+ほかの人、ただしあなたは含まない」を表します。英語の we は両方を兼ねるため、誰が含まれるかは文脈や補足表現から判断します。
Contents
包括形・除外形とは?違いは「聞き手を含むか」
| 区別 | 含まれる人 | 英語にすると |
|---|---|---|
| 包括形 | 話し手+聞き手(+ほかの人) | we, including you |
| 除外形 | 話し手+ほかの人。聞き手は含まない | we, but not you |
ポイントは「一人称複数」という学校文法の名前です。we は単純に I を複数にしたものではありません。普通、同じ話し手が複数人いるわけではなく、話し手を中心に誰かを足した集合だからです。
- I+you=包括形の最小イメージ
- I+she/he/they=除外形の最小イメージ
- I+you+they=包括形
World Atlas of Language Structures(WALS)の包括形・除外形の解説も、包括形は聞き手を必ず含み、除外形は聞き手を除くと定義しています。
しゅみすけ(大山俊輔)

英語のweは包括形と除外形を区別しない
英語では、次の二つがどちらも we です。
聞き手を含むwe
We need to decide what to order.
何を注文するか、私たちで決める必要があります。
同じテーブルにいる相手へ言えば、通常は「あなたも一緒に決める」という包括的な読みになります。
聞き手を含まないwe
We’ll review your application and contact you.
私どもで応募書類を確認し、ご連絡します。
この we は会社側の担当者たちを指し、応募者である you は含みません。文法的には同じ語でも、状況と後続する your / you が除外的な意味を明らかにします。
英語で曖昧になりやすいweの例
We’re leaving at six. だけでは、「あなたも一緒に6時に出る」のか、「私たちは6時に帰るが、あなたは別」なのか決まりません。
日常会話では声の調子、視線、共有している予定で補えます。しかし、会議・招待・予定調整では誤解につながることがあります。
| 英文 | 可能な解釈 |
|---|---|
| We should meet again. | あなたと私で/私たちのチーム内で |
| We’re having a party on Friday. | あなたも参加する集まり/こちら側だけの集まり |
| We decided to change the plan. | あなたを含む全員で/あなた以外のメンバーで |
英語の we が曖昧なのは欠陥ではありません。英語はこの情報を代名詞の語形に必ず埋め込まず、必要な場面で文脈や別の語句を使う言語なのです。
曖昧さを避ける英語表現
包括形をはっきりさせる
- you and I ― あなたと私
- all of us ― 私たち全員
- the three of us ― 私たち3人
- We can do it together. ― 私たちで一緒にできます
- Let’s … ― 一緒に~しましょう
Let’s は一般に、話し手と聞き手を一緒の行動へ誘うため、包括的な機能を持ちます。ただし、厳密な「包括形代名詞」ではなく、let us に由来する勧誘表現です。
除外形をはっきりさせる
- my team and I ― 私のチームと私
- my family and I ― 家族と私
- we on the management side ― 経営側の私たち
- We’ll discuss it and get back to you. ― こちらで相談してご連絡します
仕事では、we と you を同じ文に置くことで、誰がどちら側かが自然に明確になります。
日本語の「私たち」も包括・除外を語形では分けない
日本語の「私たち」「僕たち」「我々」も、それだけでは聞き手を含むか決まりません。
- 「私たち、次はどこへ行こうか」― 聞き手を含みやすい
- 「私たちは大阪から来ました」― 聞き手を含まないことが多い
さらに日本語の人称表現は、英語の代名詞よりも話し手と聞き手の関係、場面、丁寧さを強く反映します。2025年の研究では、日本語の代名詞を単なる人称・数・性の束として捉えるだけでは不十分で、対人関係に関する社会言語学的情報が重要だと論じられています。詳しくは“Pronouns beyond phi-features”を参照できます。
包括形・除外形を持つ言語
この区別は、ヨーロッパの主要言語を基準にすると珍しく見えますが、世界的には広く確認されています。オーストロネシア諸語、オーストラリア諸語、アメリカ大陸の諸言語などに多く見られ、代名詞だけでなく動詞の活用に区別が現れる場合もあります。
たとえばトク・ピシンでは、一般に yumi が聞き手を含む包括形、mipela が聞き手を含まない除外形として対比されます。標準中国語でも、zánmen(咱们)は通常、聞き手を含む形として使われ、wǒmen(我们)との使い分けがあります。ただし、実際の用法や地域差は単純な一対一ではありません。
さらに言語によっては、「私たち2人」「私たち3人」「私たち複数」のように、包括・除外と双数・三数・複数を組み合わせた精密な体系を持ちます。英語の一語 we に隠れている集合の作り方を、文法として表面化させているわけです。
weには「私たち」以外の使い方もある
英語の we は、実際の複数集団だけを指すとは限りません。
- 著者のwe:As we saw earlier, …(先ほど見たように)
- 組織のwe:We value your privacy.(当社はプライバシーを重視します)
- 医療・世話のwe:How are we feeling today?(今日はご気分いかがですか)
- 一般化のwe:We all make mistakes.(人は誰でも間違えます)
最初の例では書き手が読み手を推論の仲間に招き、組織のweでは企業やチームが一人の声として話します。「誰が含まれるか」は、人数だけでなく、発話が作る心理的な内側・外側にも関係します。
しゅみすけ(大山俊輔)
英会話で使える確認フレーズ
- Does that include me?
それには私も含まれますか。 - Do you mean all of us?
私たち全員という意味ですか。 - Who do you mean by “we”?
weとは誰のことですか。 - Are we going together?
私たちは一緒に行くのですか。 - Just your team, or us too?
そちらのチームだけですか、それとも私たちもですか。
まとめ|weは単語一つで「内側」と「外側」を作る
包括形は聞き手を含み、除外形は聞き手を含みません。この違いを別々の語形で示す言語がある一方、英語の we と日本語の「私たち」は両方を兼ねます。
- 包括形:I+YOU(+OTHERS)
- 除外形:I+OTHERS、NOT YOU
- 英語:どちらもwe。文脈や補足で区別
- 日本語:「私たち」なども基本的に同様
人称代名詞は、単に人を指す小さな単語ではありません。話し手が聞き手を仲間に入れるか、外側に置くかという、人間関係の境界まで映し出す文法なのです。
参考文献・参考資料
- Cysouw, Michael, “Inclusive/Exclusive Distinction in Independent Pronouns,” WALS Online.
- Cysouw, Michael, “Inclusive/Exclusive Distinction in Verbal Inflection,” WALS Online.
- Moskal, Beata (2018), “Suppletion Patterns in Clusivity,” Glossa.
- Ritter, Elizabeth & Martina Wiltschko (2025), “Pronouns beyond phi-features,” Journal of Linguistics.
- “Pronouns,” The Cambridge Handbook of Comparative Syntax.










