
同じ内容でも、「窓を閉めて」「窓、閉めてもらえる?」「少し寒いですね」では、相手との関係や場面によって選ぶ表現が変わります。M.A.K.ハリデーは、言語を固定した規則の一覧ではなく、社会の中で意味をつくるための選択肢の体系として捉えました。
しゅみすけ(大山俊輔)
Contents
M.A.K.ハリデーとは
マイケル・アレクサンダー・カークウッド・ハリデー(Michael Alexander Kirkwood Halliday、1925–2018)は、イギリス生まれの言語学者です。中国語研究やロンドン学派の伝統を背景に、のちに選択体系機能言語学(Systemic Functional Linguistics:SFL)を発展させました。UCLの追悼記事も、ハリデーをSFLの創始者として紹介し、言語を社会的な記号体系として捉えた点を強調しています。
この考えには、意味を「状況の文脈」や実際の使用から考えたJ.R.ファースの影響があります。ただし、ハリデーはそれを、文法・意味・文脈の関係をまとめて分析できる大きなモデルへ展開しました。
選択体系機能言語学とは
systemic:言語は「選択肢の体系」
SFLでいう「選択」は、話すたびに意識的にメニューを眺める、という意味ではありません。話し手は、平叙文か疑問文か、断定するか可能性として述べるか、誰を文の出発点にするかなど、利用できる意味資源の中から表現を実現します。選択の多くは無意識的です。
したがって、SFLの中心的な問いは「この形は正しいか」だけでなく、この場面で、なぜこの表現が選ばれ、どんな意味を生むのかです。
functional:形を「働き」から見る
ハリデーの文法は、主語・動詞などの形を無視する理論ではありません。形を、意味を実現する働きと結びつけて説明します。ケンブリッジ大学出版局のSFL概説も、このアプローチを「状況の文脈の中で、言語がどのように意味をつくるか」を調べるものとまとめています。
言語の3つの働き(メタ機能)
SFLでは、一つの発話が主に三つのメタ機能を同時に担うと考えます。

1. 観念構成的メタ機能:経験を表す
世界で何が起きたか、誰が何をしたか、どのような状態かを表す働きです。たとえば The student opened the window. なら、「学生」「窓」「開ける」という経験の構図を言語化しています。節の分析では、過程・参与者・状況などの関係に注目します。
2. 対人的メタ機能:関係をつくる
情報を伝える、質問する、命令する、態度や確信度を示すなど、話し手と聞き手の関係を組み立てる働きです。Open the window. と Could you open the window? は求める行為が似ていても、相手への働きかけ方が異なります。
3. テクスト形成的メタ機能:文章をまとめる
個々の意味を、場面に合った流れのあるメッセージとして組織する働きです。何を文の出発点に置くか、既知の情報と新しい情報をどう並べるかによって、同じ出来事でも焦点が変わります。
同じ一文に3つの働きが重なる
Yesterday, Aya carefully explained the plan to us. という一文を見てみましょう。
- 経験を表す:アヤが計画を私たちに説明した。
- 関係をつくる:話し手は出来事を平叙文として提示し、carefully で評価も添える。
- 文章をまとめる:Yesterday を先頭に置き、時間を話題の出発点にする。
三つは別々の文に分かれるのではなく、同じ表現の中で同時に働きます。だからSFLは、文法形式と、文章全体の目的・場面・人間関係を橋渡しできます。
レジスター:場面が言葉の選択を方向づける
SFLでは、状況の文脈を考える代表的な観点として、活動や話題に関わるフィールド(field)、参加者の関係に関わるテナー(tenor)、話し言葉・書き言葉など伝達の仕方に関わるモード(mode)があります。この組み合わせによる言語使用の違いをレジスターとして捉えます。
友人へのメッセージ、顧客へのメール、研究論文では、同じ出来事を扱っても語彙・文法・文章構成が変わります。これは単なる「丁寧さ」の差ではなく、場面に応じた意味の選択です。
英語学習にどう役立つ?
- 文法を、形だけでなく「何をする表現か」から理解できる
- 会話・メール・プレゼンなど、場面に合う表現を比較できる
- 主題の置き方や情報の流れを見て、読みやすい英文を作れる
- 教材やニュースが、人物・責任・評価をどう表しているか分析できる
しゅみすけ(大山俊輔)
理論の限界と注意点
SFLは、実際の文章や会話を社会的文脈と結びつけて精密に記述する強力な枠組みです。一方、用語と分析体系が大きく、入門者には複雑です。また、SFLの「選択」は主として機能的な記述概念であり、脳内で選択がどう処理されるかを直接実験で説明する認知モデルと同じではありません。さらに、ジャンルや社会構造との関係づけには複数の発展形があり、すべてのSFL研究が同一の分析手順を採るわけでもありません。
つまり、ハリデーの枠組みは「言語の唯一の答え」というより、言葉の形・意味・社会的な働きを一緒に見るための理論として理解するのが適切です。
まとめ
M.A.K.ハリデーは、言語を社会の中で意味をつくる選択肢の体系として捉えました。一つの発話には、経験を表す観念構成的機能、関係をつくる対人的機能、文章をまとめるテクスト形成的機能が重なっています。この視点を持つと、英文法は規則の暗記から、目的と場面に合わせて意味を選ぶための道具へと見え方が変わります。
参考資料
- UCL: Michael Halliday Tribute
- Cambridge University Press: Key Terms in the SFL Model
- Cambridge University Press: The Clause
- Halliday, M. A. K. (1978). Language as Social Semiotic.
- Halliday, M. A. K. & Matthiessen, C. M. I. M. (2014). Halliday’s Introduction to Functional Grammar, 4th ed.










