
「言いたい日本語にぴったりの英単語が出てこない」「抽象的な話になると急に英語が止まる」。そんなとき、難しい単語を思い出すことだけが解決策ではありません。言いたい意味を小さく分け、知っている基本語で組み直せば、英語はもう一度動き始めます。
本記事では、Basic English、NSM、Minimal Englishに共通する発想を、英会話で使える意味分解の7ステップへ落とします。結論は単純です。日本語を英語へ直接交換するのではなく、日本語 → 場面と意味 → やさしい英語の順に変換します。
Contents
難しい言葉をやさしい英語に言い換える基本原則
| うまくいきにくい考え方 | 言い換えの考え方 |
|---|---|
| 日本語一語に対応する英単語を探す | その場で伝える必要がある意味を探す |
| 辞書の最初の訳語を使う | 誰が、何をし、どう感じるかに分ける |
| 難語を別の難語で説明する | 基本動詞・身近な名詞・短い文へ戻す |
| 日本語の含みをすべて一文へ詰め込む | 相手に必要な情報だけ順番に渡す |
たとえば「気まずい」をawkwardと思い出せなくても、I didn’t know what to say.、We both felt bad.、No one spoke for a while.など、場面に応じた説明ができます。元の日本語と同じ品詞である必要もありません。
しゅみすけ(大山俊輔)
ステップ1:単語ではなく「場面」を見る
最初に確認するのは日本語の見出し語ではなく、誰が誰に、いつ、何のために言うかです。同じ「もったいない」でも、食べ物を捨てる、能力を生かさない、高価な服を普段使いする場面では、英語で伝える中心が違います。
| 確認項目 | 質問 |
|---|---|
| 人 | 誰が、誰について話しているか |
| 出来事 | 何が起きた、または起きようとしているか |
| 評価 | 何をよい・悪い・残念だと思っているか |
| 目的 | 説明、依頼、断り、共感のどれか |
「単語がわからない」を「この場面で何を伝えたいかわからない」に置き換えると、考える場所が見えてきます。
ステップ2:その表現がしている仕事を決める
言葉には辞書的意味だけでなく、会話上の仕事があります。「よろしくお願いします」は、依頼を柔らかくする、協働の開始を確認する、今後の配慮に感謝するなど、場面によって仕事が変わります。
仕事が「依頼」ならCould you help me with this?、「協働開始」ならI’m looking forward to working with you.、「事前の感謝」ならThank you for taking care of this.と表せます。一つの万能訳を探すより、その発話が果たす仕事を英語で実行します。
ステップ3:「人・考え・行動・結果」へ分ける
複雑な概念は、次の四箱に入れると分解しやすくなります。
- 人:誰が関わるか
- 考え・感情:その人は何を思い、感じ、望むか
- 行動:誰が何をする、またはしないか
- 結果:そのため何が起こるか
たとえば「遠慮する」なら、「私は何かをしたい」「しかし、そうすると相手によくないことがあるかもしれない」「だから今はしない」のように分けられます。これは正式なNSM explicationではありませんが、意味を見える形にする実践的な入口です。
ステップ4:隠れた前提を表に出す
翻訳しにくい表現には、話し手と聞き手が共有している前提が隠れています。「空気を読んで」には、「この場にいる人は直接言わない」「小さな手がかりから何をすべきか知るのがよい」といった期待が含まれることがあります。
英語では、その前提を必要な分だけ明示します。
| 圧縮された日本語 | 前提を開いた英語例 |
|---|---|
| 空気を読んで | Look at how everyone is reacting before you say it. |
| 察してほしい | I don’t want to say everything directly, but I hope you understand how I feel. |
| 和を乱したくない | I don’t want this disagreement to make it difficult for everyone to work together. |
文化語の詳しい整理は、日本語の文化語とcultural scripts総合ガイドで扱っています。
ステップ5:意味を基本語のブロックへ置き換える
ここで初めて英語を選びます。便利なのは、意味の広い基本動詞と関係語です。
| 役割 | 使いやすい基本語 | 考えること |
|---|---|---|
| 状態・存在 | be, have, there is | 何がどんな状態か |
| 行動・変化 | do, make, get, go, come, put | 誰が何を変えるか |
| 心 | think, know, want, feel | 内面で何が起きるか |
| 伝達 | say, tell, show, ask | 誰から誰へ何を渡すか |
| 評価・因果 | good, bad, because, if | なぜ、どんな結果になるか |
オグデンのBasic Englishも、限られた基本語の組み合わせから表現を作りました。詳しい設計はC・K・オグデンとBasic English完全ガイドで確認できます。
ステップ6:短い英語へ組み直す
分解した要素を、一文へ戻す必要はありません。短い二、三文にした方が、聞き手も処理しやすくなります。
| 難しい概念 | 意味分解 | やさしい英語例 |
|---|---|---|
| 優柔不断 | 選べない/間違いを恐れる/時間がかかる | I have trouble making decisions. I often worry that I will choose the wrong thing. |
| 臨機応変 | 状況を見る/計画を変える/必要な行動をする | We can look at what is happening and change the plan if we need to. |
| 恩着せがましい | よいことをした/相手に覚えてほしい/見返りを求める | He keeps talking about what he did for me. It feels like he wants something in return. |
| 忖度する | 権力のある人の望みを推測する/直接言われる前に行動する | They try to guess what the boss wants and act before the boss says it. |
ここでは「日本語の辞書定義を完全再現する」より、今の場面で必要な意味を明確に渡すことを優先します。
ステップ7:相手に届いたか確認する
言い換えは、英文を作った時点では完成していません。相手の反応を見て、必要なら具体例を加えます。
- Does that make sense?
- Let me give you an example.
- What I mean is …
- In this situation, …
- It’s a little like …, but …
完全な一発翻訳を目指すより、説明・確認・修正を一つの会話として設計する方が実用的です。
7ステップを一枚で確認する

- 単語ではなく場面を見る
- 表現がしている仕事を決める
- 人・考え・行動・結果へ分ける
- 隠れた前提を表に出す
- 基本語のブロックへ置き換える
- 短い英語へ組み直す
- 相手に届いたか確認する
この順番は、Basic English・NSM・Minimal Englishの3体系比較で整理した「道具箱・顕微鏡・橋」を、実際の会話手順へ変えたものです。
しゅみすけ(大山俊輔)
言い換えが失敗しやすい5つのパターン
| 失敗 | 修正 |
|---|---|
| 難語を難語で置き換える | 行動や具体的な結果まで降りる |
| 説明が長すぎる | 今の目的に必要な意味を一つ選ぶ |
| 基本語だけで不自然になる | 相手が知る専門語は残し、後から説明する |
| 日本文化を一般化する | 「この場面では」「こう考える人もいる」と限定する |
| 自分だけで完成させようとする | 相手に確認し、共同で意味を作る |
やさしい単語を使うことは、内容を幼稚にすることではありません。専門語を捨てる必要もありません。必要な語は残し、その意味と前提を基本語で支えるのがよい言い換えです。
AIを使う場合も、先に意味を分ける
生成AIへ「簡単な英語にして」と頼むだけでは、語彙だけ簡単で構文が複雑になったり、大切な含みが消えたりします。先に目的を指定します。
この日本語を、①誰が何を思うか、②誰が何をするか、③何が起こるかに分けてください。その後、中学英語を中心に2~3文で言い換えてください。元の意味から失われる要素も示してください。
AIの出力も、場面に合うか、余計な評価が加わっていないか、聞き手に必要な情報が残っているかを人間が点検します。
1分でできる言い換え練習テンプレート
日常の日本語を一つ選び、次の空欄を埋めます。最初は英語を書かず、日本語で意味を小さくしてもかまいません。
- 場面:これは、___のときに言う。
- 人:___が、___について話している。
- 心:その人は___と思う/感じる/望む。
- 行動:そのため、___する/しない。
- 結果:その後、___が起こる。
- 基本語:be・have・do・make・get・think・wantなどで言い直す。
- 確認:相手に例を加える必要があるか考える。
| 練習語 | 最初に分ける方向 | やさしい英語の入口 |
|---|---|---|
| 気が引ける | したい/相手に負担かもしれない/ためらう | I want to ask, but I feel bad because … |
| 名残惜しい | よい時間だった/終わってほしくない/離れる | I had a very good time. I don’t want it to end yet. |
| 腑に落ちない | 説明を聞いた/一部が理解できない/まだ納得できない | I understand what you said, but one part still doesn’t make sense to me. |
一日一語をこの形で分けると、単語暗記とは別の「意味を操作する力」が育ちます。同じ日本語でも場面を変えて二通り作ると、一語一訳から離れる練習になります。
まとめ:単語が出ないときは、意味を小さくすれば英語は動き出す
難しい日本語を英語にするとき、最初に英単語を探す必要はありません。場面を見て、表現の仕事を決め、人・考え・行動・結果へ分け、隠れた前提を開きます。その後で基本語を選び、短い文へ組み直し、相手と確認します。
これは英単語を知らないときだけの緊急避難ではありません。自分が本当に何を言いたいのかを見つける方法でもあります。語彙を増やしながら、今ある語彙でも伝える。その二本立てが、英語を止めない力になります。









