意味記憶とは?エピソード記憶との違いと英語学習への活かし方

意味記憶とは何かを英語の単語・意味・文法・概念のネットワークで示した図

意味記憶とは、言葉の意味、物の名前、事実、概念、ルールなど、「いつ・どこで覚えたか」と切り離して使える一般的な知識の記憶です。英語学習なら、appleはリンゴを表す過去の出来事には過去形を使うCould you …? は丁寧な依頼に使えるといった知識が当てはまります。

ただし、意味記憶は「単語帳を丸暗記した記憶」と同じではありません。単語・意味・文法・場面・関連表現が結びついた知識のネットワークです。結びつきが豊かで、必要なときに取り出す練習ができているほど、英語は理解にも発話にも使いやすくなります。

意味記憶とは?簡単にいうと「意味や知識の記憶」

心理学・認知科学では、長期記憶をいくつかの仕組みに分けて考えます。意味記憶(semantic memory)は、個人的な出来事そのものではなく、世界についての知識を保持する記憶です。たとえば「東京は日本の首都」「犬は動物」「bookは本」という知識は、最初に知った日の教室や天気を思い出さなくても答えられます。

提唱者のエンデル・タルヴィングは、出来事を再体験するエピソード記憶と、知識として知っている意味記憶を区別しました。ただし、両者は完全に独立した箱ではありません。実際の経験から一般的な知識が育ち、既に持っている知識が新しい経験の理解を助けます。

記憶の種類 何を覚えるか 英語学習の例
意味記憶 言葉・事実・概念・ルール 語彙の意味、文法知識、表現の使い分け
エピソード記憶 時間や場所を伴う自分の経験 旅行先で注文した会話、レッスンで笑った場面
手続き記憶 意識せず行える技能や手順 語順を素早く組み立てる、発音を滑らかに行う

より大きな分類で見ると、意味記憶とエピソード記憶は、意識して説明できる「宣言的記憶」に含まれます。一方、会話で文法をいちいち説明せず処理できる状態は手続き化に近いものです。詳しくは宣言的記憶と手続き記憶の違いも参照してください。

しゅみすけ(大山俊輔)

英単語の意味を説明できることは大切です。ただし、説明できることと、会話中にすぐ使えることは同じではありません。知識を取り出す練習まで行って、初めて実用に近づきます。

意味記憶とエピソード記憶の違い

両者の違いは、「知っている」と「自分の出来事として思い出す」の違いで考えると分かりやすいでしょう。

  • 「caféはコーヒーなどを飲む店」――意味記憶
  • 「先週、駅前のカフェで英語で注文した」――エピソード記憶
  • 「I’d like a latte. が注文に使える」――意味記憶
  • 「店員にそう言って通じたときの緊張と安堵」――エピソード記憶

英語学習では、どちらか一方を選ぶ必要はありません。経験や例文というエピソードが、抽象的な語彙・文法知識に文脈を与えます。反対に意味記憶があるからこそ、別の店や別の相手にも同じ表現を応用できます。詳しい違いはエピソード記憶とは?意味記憶との違いで整理しています。

英語学習で意味記憶が担うもの

1.単語と概念を結びつける

語彙は「英単語=日本語訳」の一対一対応だけではありません。たとえば run は「走る」だけでなく、会社を経営する、機械が作動する、道が延びるなど複数の意味を持ちます。典型例、反対語、似た語、使われる場面と結びつけることで、意味記憶のネットワークが育ちます。

2.文法を予測に使う

文法知識も意味記憶の一部です。「現在完了は過去と現在を結ぶ」「助動詞の後ろは動詞の原形」と知っていれば、英文を読むときの予測や、自分で文を作るときの判断に使えます。ただし知識を持つだけでは処理速度は上がりません。実際の文で何度も意味を取り、作り、修正する必要があります。

3.表現をチャンクとして取り出す

Would you mind …?It depends on … のようなまとまりは、単語を一語ずつ組み立てる負担を減らします。表現の意味と使う状況をひとまとまりにしておくと、会話時の検索が速くなります。これは英語のチャンクとは?意味・効果・練習法で扱った考え方とも重なります。

エピソード記憶から意味記憶、検索と反復、自動化へ進む英語学習の流れ
文脈のある経験を知識として整理し、自力で取り出すことで、使える英語へ近づく

意味記憶を英語で使える形にする5つの方法

1.訳語だけでなく「説明・例・対比」を加える

新しい語を覚えるときは、日本語訳に加えて、短い英語の説明、典型的な例、似た語との違いを一つずつ付けます。たとえば borrow なら「人から一時的に借りる」「lendは貸す」と整理します。情報を増やすことが目的ではなく、区別に役立つ手掛かりを作ることが目的です。

2.自分の場面で例文を作る

一般知識だけで終わらせず、自分の予定や経験に接続します。I borrowed an umbrella from my colleague yesterday. のように人物・場所・感情を入れると、エピソード記憶が検索の手掛かりになります。例文は難しくするより、後で本当に言いそうな一文にするのが効果的です。

3.見直す前に思い出す

ノートを読み返すだけでなく、意味を隠して答える、場面から表現を言う、日本語を見て英文を作るなど、自力で検索します。検索練習は、知識の有無を測るテストにとどまらず、後の保持を強める学習になります。答えられなかった項目も、すぐ答えを確認すれば弱い接続が見つかったという有益な情報です。

4.間隔を空けて別の文脈で使う

同じ日に十回読むより、翌日、数日後、一週間後と間隔を空けて思い出します。そのたびに相手や場面を少し変えると、特定の例文だけに依存せず一般化しやすくなります。復習間隔についてはエビングハウスの忘却曲線の正しい意味も参考になります。

5.短い会話で速度を上げる

最後は、知識を使う制限時間を短くします。質問を聞いて三秒以内に答える、一つの表現で内容を三通り変える、講師との会話でその日の語を二回使う、といった練習です。意味記憶を繰り返し検索して使うことで、知識はより速く利用できるようになり、技能としての自動化に近づきます。

しゅみすけ(大山俊輔)

覚えるときは「つながり」を増やし、練習するときは「自力で取り出す回数」を増やしてください。知識量だけでなく、必要な場面でアクセスできるかが会話力を左右します。

意味記憶についてよくある誤解

意味記憶が強ければ英語を話せる?

意味記憶は会話の材料ですが、それだけで流暢に話せるわけではありません。発話には、相手の意図を理解し、内容を選び、語彙と文法を検索し、音声にする処理が必要です。知識を会話条件で繰り返し使い、処理を速くする練習が欠かせません。

文脈なしで覚える記憶だから、例文は不要?

「文脈から独立して使える知識」と「文脈なしで学ぶべき」は別の話です。具体例や経験は、意味を理解して検索する手掛かりになります。複数の文脈に触れることで、最終的には一つの場面に縛られない知識へ一般化しやすくなります。

脳の一か所に意味記憶が保存される?

記憶を単純な保管庫のように捉えるのは正確ではありません。意味知識の処理には広い神経ネットワークが関わり、概念の種類や課題によって活動の仕方も異なります。英語学習では「脳の特定部位を鍛える」と考えるより、理解・関連付け・検索・使用という学習行動に落とし込む方が実用的です。

1週間で試せるミニ練習

覚えたい表現を五つに絞り、初日は意味・似た表現との違い・自分用の例文を整理します。翌日はノートを閉じ、場面だけを見て英語を口にします。三日後は相手や時制を変えて言い換え、一週間後は短い会話の中で使ってください。答えを眺める時間より、少し迷いながら自分で取り出す時間を作ることがポイントです。

正解したかどうかだけでなく、「意味は分かったが単語が出なかった」「単語は出たが語順に迷った」のように詰まった場所を記録すると、次の練習が具体的になります。意味の接続が弱ければ例や対比を足し、検索が遅ければ短い間隔で口頭練習を増やします。すべてを同じ回数だけ復習するより、弱い接続に練習を配分する方が合理的です。

意味記憶が属するより大きな枠組みは、宣言的記憶とは何かで整理しています。

:意味記憶は英語知識のネットワーク

意味記憶とは、言葉の意味、事実、概念、ルールなどを保存する長期記憶です。英語では語彙・文法・表現の知識を支えます。しかし、「知っている」を「使える」に変えるには、エピソードによる文脈、チャンク化、自力で思い出す検索練習、間隔を空けた反復、実際の発話が必要です。

記憶全体から発話・自動化までの関係は、親記事の英語が身につく仕組みとは?記憶から発話・自動化までを科学する、記憶の時間軸については短期記憶と長期記憶の違いで体系的に解説しています。

意味記憶を、短期記憶・ワーキングメモリ・エピソード記憶・手続き記憶とともに俯瞰する場合は、記憶の種類とは?英語学習を支える6つの仕組みをご覧ください。

参考文献

  • Tulving, E. (1972). Episodic and semantic memory. In Organization of Memory.
  • Binder, J. R. & Desai, R. H. (2011). The neurobiology of semantic memory. Trends in Cognitive Sciences, 15(11), 527–536.
  • Renoult, L. et al. (2019). From knowing to remembering: The semantic–episodic distinction. Trends in Cognitive Sciences, 23(12), 1041–1057.
  • Roediger, H. L. & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning. Psychological Science, 17(3), 249–255.
  • Cepeda, N. J. et al. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380.
この記事を書いた人
しゅみすけ(大山俊輔)

b わたしの英会話および英語コーチングGRIT/be:RIZE代表。米国MBA取得、外資系企業4社での勤務経験を持ち、これまで多くの大人の英語学習を支援。日本語と英語の処理構造の違いに着目した「英語OS」の考え方をもとに、独学で伸び悩む人の学び直しをサポートしています。

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