
英語の発音を調べていると、台形の中に /iː/、/ɪ/、/æ/、/ɑː/、/uː/ などが並んだ「母音図(vowel chart)」に出会います。ところが、なぜ表ではなく台形なのか、記号の上下左右にどんな意味があるのかは、意外と説明されません。
母音図は、発音記号の暗記表ではありません。口の中で舌がどのあたりにあり、唇をどう使うと、その母音らしい響きになるのかを見渡すための「音の地図」です。この記事では、母音図の読み方を英語と日本語の違いから整理します。
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英語の母音図とは?
母音図は、母音の性質を主に次の3つの軸で配置した図です。
- 縦軸:舌の高さ(高い/低い。顎の開きとも関係する)
- 横軸:舌の最も高い部分が前寄りか、中央か、後ろ寄りか
- 記号の組・補助情報:唇を丸めるか、丸めないか
国際音声学会のIPA母音図では、上から close(狭い)から open(広い)、左から front(前)・central(中央)・back(後ろ)へ並びます。記号が対になっている場合は、右側が円唇母音です。
つまり、図の左上は「舌が高く前寄り」、右下は「舌が低く後ろ寄り」という方向を表します。ただし、図は口の中を写真のように写したものではありません。母音を比較するために、舌の位置と音響的な性質を単純化した座標です。
母音を決める3つの軸

1.縦方向は「舌の高さ」
図の上側にある母音ほど舌の位置が高く、口の開きは小さくなります。たとえば英語の see の /iː/ は高い位置、cat の /æ/ はそれより低い位置に置かれます。
ただし「高い音=高い声」という意味ではありません。声の高さ(ピッチ)ではなく、口腔内での舌の高さです。IPAでは close/open という表現も使われますが、これは舌と口蓋の間が狭いか広いかを見る言い方です。
2.横方向は「舌の前後」
左側は舌の前方が高くなる前舌母音、中央は中舌母音、右側は舌の後方が高くなる後舌母音です。たとえば /iː/ は前寄り、food の /uː/ は後ろ寄り、弱い音節に現れやすい schwa(シュワー)/ə/ は中央付近に置かれます。
ここでいう「舌の位置」は舌先だけを指しません。母音では、舌全体のうち最も盛り上がる部分が前か後ろかを見ます。
3.平面図に見えない軸が「唇の丸め」
同じような舌の位置でも、唇を丸めるかどうかで響きは変わります。たとえば /iː/ は一般に非円唇、/uː/ は円唇として説明されます。唇は母音図の縦横とは別の情報なので、図によっては記号の並び方や色分けで示されます。
The Cambridge Handbook of Phoneticsも、舌の高さ・前後・唇の丸めが母音の音色、つまり母音の「音質」を形づくる基本だと整理しています。
しゅみすけ(大山俊輔)
なぜ母音図は四角ではなく台形なのか
人の口の中は、舌を前後どこに置いても同じ幅で上下できる空間ではありません。舌が高い位置にあるときと低い位置にあるときでは、取り得る前後の範囲も、口腔の形も異なります。その関係を単純化した結果、母音空間は台形に近い形で描かれます。
この外周には、舌をそれ以上動かすと摩擦が生じて子音に近づいたり、実際の発音として無理が生じたりする限界があります。IPAの基本母音(cardinal vowels)は、各言語の母音を比較するための参照点です。英語の母音すべてが、台形上の一点に機械的に固定されているわけではありません。
母音図の点は「絶対の発音位置」ではない
母音図で最も大切なのは、点をGPSの緯度・経度のように捉えないことです。実際の母音は、話者、地域、年代、前後の音、強勢によって少しずつ動きます。
同じ発音記号でも辞書や採用する英語変種によって表記が異なることがあります。イギリス英語とアメリカ英語の違いも含め、記号は「この一点でなければ誤り」という印ではなく、音のカテゴリーと他の母音との関係を示す道具です。記号そのものの仕組みはIPA(国際音声記号)とは?で詳しく解説しています。
日本語の5母音と英語の母音図はどう違う?
日本語にも「あ・い・う・え・お」という母音の体系があります。しかし、英語の母音を日本語の5つへそのまま置き換えると、異なる場所にある音を同じ箱へ入れることになります。
| 見る点 | 日本語 | 英語 |
|---|---|---|
| 母音カテゴリー | 基本的に5つ | 変種により数え方が異なり、単母音・二重母音を含め多い |
| 区別の手がかり | 5つの音質を中心に区別 | 舌の高さ・前後、唇、音質、長さなどが関係 |
| 図の役割 | 比較的広い5領域で捉えやすい | 近接する複数の母音の関係を見る必要がある |
| 学習時の注意 | 「イ」「ア」などへまとめやすい | /iː/ と /ɪ/、/æ/ と /ʌ/ などを別の位置関係として捉える |
たとえば sheep と ship の違いは、単なる「長いイ/短いイ」ではありません。舌の高さや前後を含む音質も違います。詳しくは英語の長母音・短母音は長さだけで決まらないをご覧ください。
また、英語の母音と日本語の5母音の違いでは体系全体を、英語の二重母音とは?では、図上の一地点ではなく一つの母音から別の母音へ動く音を扱っています。
母音図を発音学習にどう使う?
- 耳で違いを確認する:辞書や音声付きチャートで対象の母音を聞く
- 図で関係を見る:近い母音より舌が高いか低いか、前か後ろかを確認する
- 口の中を小さく動かす:日本語の音から大げさに作り直さず、舌と唇を少しずつ調整する
- 単語の中で録音する:単音だけでなく、前後の子音や強勢を含めて確かめる
British CouncilのLearnEnglish Sounds Rightでは、純母音がIPA母音図と同様に口の形に沿って配置され、記号を押して音を確認できます。
ただし、図を見ながら舌を「正解の点」へ力ずくで固定しようとすると、かえって不自然になります。実際の練習では、録音や講師のフィードバックを使い、聞こえ方と口の動きを往復するのが有効です。
しゅみすけ(大山俊輔)
具体的な練習の進め方は、be-rize.comのネイティブを真似しても発音できない理由、英語の発音は独学で練習できる?も参考になります。b-cafeのスクール選び・学習情報では、英語の母音の発音と口の形を実践寄りに紹介しています。
まとめ:母音図は、英語の母音どうしの距離を見る地図
英語の母音図は、記号を丸暗記する一覧ではありません。縦に舌の高さ、横に舌の前後、さらに唇の丸めを重ね、母音どうしの関係を見えるようにした地図です。
日本語の5母音だけで英語を聞こうとすると、近くにある複数の母音が同じ「ア」や「イ」に集まりやすくなります。母音図を使えば、「日本語にない音」をゼロから作るのではなく、いつもの音からどの方向へ少し動けばよいかを考えられます。
音・発音の全体像へ戻る方は、親記事の英語の音・発音とは?もあわせてご覧ください。








