
英語の二重母音(diphthong)とは、ひとつの音節の中で、ある母音の位置から別の母音の位置へ舌や唇が滑るように動く音です。「二重」という名前ですが、二つの母音を一音ずつ区切って読むのではありません。
たとえばday、my、boy、nowの母音では、発音の始まりと終わりで口の形や舌の位置が変化します。それでも、単語の中では一まとまりの音節核として働きます。
日本語話者が二重母音を難しく感じやすいのは、「アイ」「アウ」のように二つの拍へ分けて捉えたり、反対に最初から一つのカタカナ母音へまとめたりしやすいためです。この記事では、英語の二重母音とは何か、単母音や母音連続との違い、なぜ二つの音なのに一音節なのかを、英語と日本語の比較から整理します。
Contents
英語の二重母音とは?
二重母音は、母音の音質が発音の途中で変化する音です。英語ではdiphthongと呼びます。語源的には「二つの音」を表しますが、音節としては一つにまとまります。
母音は、舌の高さ、舌の前後位置、唇の丸め方によって音質が変わります。単母音ではこれらの構えが比較的安定しますが、二重母音では発音中に構えが連続的に移動します。
| 種類 | 舌・唇の動き | 音節内での働き |
|---|---|---|
| 単母音(monophthong) | 一つの母音位置で比較的安定する | 一つの音節核 |
| 二重母音(diphthong) | 一つの母音位置から別の位置へ滑る | 移動全体で一つの音節核 |
母音体系の全体像は英語の母音とは?、母音が音節の中心になる仕組みは英語の音節とは?で詳しく説明しています。
なぜ「二つの音」なのに一音節になる?
音節を数えるとき、重要なのは文字の数や口の形が変わる回数ではなく、音節の中心となる核(nucleus)がいくつあるかです。
二重母音では、始点と終点という二つの母音的な要素があっても、その間に切れ目がありません。一つの核の内部で音質が変化するため、全体で一音節になります。
たとえば英語のmyは、つづりが二文字で、母音の響きも途中で変わりますが一音節です。boy、day、nowも同様です。一方、母音がそれぞれ独立した音節核として発音されれば、二音節以上になります。
しゅみすけ(大山俊輔)
二重母音と母音連続の違い

二つの母音的な音が並んでいても、すべてが二重母音になるわけではありません。二重母音と母音連続の違いは、二つの音が一つの音節に収まるか、別々の音節核に分かれるかにあります。
| 区分 | 音のまとまり | 特徴 |
|---|---|---|
| 二重母音 | 一音節 | 途中で区切らず、一つの母音軌道として滑る |
| 母音連続・hiatus | 二音節以上 | 各母音がそれぞれ音節の中心になる |
たとえば英語のscienceは、話者や分析によって細部は異なりますが、通常は複数の音節として扱われます。二重母音を含む一つの音節と、その後の別の音節が並びます。単語内に母音字が連続していても、文字の並びだけで音節数や二重母音かどうかは決まりません。
英国英語でよく挙げられる8つの二重母音
伝統的な英国標準発音の学習モデルでは、二重母音を8つに整理することがあります。5つのclosing diphthongsと、3つのcentring diphthongsです。
閉じる方向へ動く二重母音
| 発音記号 | 代表的な語 | 動きのイメージ |
|---|---|---|
| /eɪ/ | face・day | 前寄りの中間位置から高い位置へ |
| /aɪ/ | price・my | 低い位置から前方の高い位置へ |
| /ɔɪ/ | choice・boy | 後方から前方の高い位置へ |
| /əʊ/ | goat・home | 中央付近から後方の高い位置へ |
| /aʊ/ | mouth・now | 低い位置から後方の高い位置へ |
中央方向へ動く二重母音
| 伝統的な表記 | 代表的な語 | 注意点 |
|---|---|---|
| /ɪə/ | near | 現代の発音や訛りで実現が異なる |
| /eə/ | square | 単母音化する話者もいる |
| /ʊə/ | cure | 他の母音と合流している話者も多い |
この「8つ」は、すべての英語に共通する絶対的な一覧ではありません。英語のアクセントや世代によって、ある二重母音が単母音に近づいたり、別の母音と合流したりします。
米語では表記と数え方が違う
一般米語では、goatの母音を/oʊ/と表すことが多く、英国英語の/əʊ/とは始点の捉え方が異なります。また、米語はrを発音するrhotic accentであるため、near・square・cureなどを、英国英語の伝統的なcentring diphthongと同じようには分析しない場合があります。
つまり、二重母音の一覧を見て数が違っていても、片方が誤りとは限りません。
- どの地域・社会の英語を基準にしているか
- 音声をどこまで細かく記述しているか
- rを独立した子音として含めるか
- 単母音化や母音の合流をどう分析するか
こうした方針によって、二重母音の数と発音記号は変わります。英国英語と米国英語の背景はRP・一般米語とは?、発音記号の表記差はIPA(国際音声記号)とは?をご覧ください。
日本語の「アイ・アウ」と英語の二重母音の違い
日本語にも母音が続く語はあります。しかし、日本語はモーラを基準にリズムを組み立てるため、「アイ」「アウ」などを複数の拍として保ちやすい言語です。
英語の二重母音は、一音節の中で最初の母音から次の方向へ動きます。日本語話者がpriceを「プ・ラ・イ・ス」のような複数の拍で組み立てると、英語の一音節としてのまとまりが崩れやすくなります。
ただし、日本語の母音連続も実際の会話では滑らかにつながったり、地域や語によって融合したりします。「日本語には二重母音が一切ない」と単純化するのは正確ではありません。大切なのは、英語では意味を区別する母音体系の一部として、音節内部の動きが組織されている点です。
二重母音は最初の音と最後の音が同じ長さではない
二重母音を「二つの母音を半分ずつ発音する」と考える必要はありません。英語の多くの二重母音では、始まりの部分が比較的はっきり長く、終点は短いglideとして近づく傾向があります。
たとえば/aɪ/を、完全な「ア」と完全な「イ」に二分して発音すると、二つの音節のように聞こえやすくなります。最初の母音を土台にしながら、終点へ向かって舌を滑らせることで一音節のまとまりになります。
しゅみすけ(大山俊輔)
二重母音と長母音は同じもの?
二重母音は発音中に動きがあるため、単母音より長く聞こえることがあります。しかし、二重母音と長母音は分類の基準が異なります。
| 分類 | 基準 |
|---|---|
| 長母音・短母音 | 持続時間や、長さと関連する母音体系上の区別 |
| 単母音・二重母音 | 発音中に母音の音質が安定するか、移動するか |
長く発音される単母音もあり、比較的短く実現される二重母音もあります。また、フォニックスでlong vowelと呼ばれる音の中に二重母音が含まれることも、用語が混乱する理由です。詳しくは英語の長母音・短母音とは?をご覧ください。
スペルを見ただけでは二重母音か分からない
二重母音は、二つの母音字で表されるとは限りません。myやtimeのように、一つの母音字を中心としたつづりでも二重母音になります。反対に、二つの母音字が並んでいても単母音を表すことがあります。
また、同じつづりでも単語やアクセントによって発音が異なります。英語では、文字の数と音の数を分けて考える必要があります。これは英語のスペルと発音が一致しないのはなぜ?につながる問題です。
英語の二重母音を理解するポイント
- 二重母音は、一音節の中で母音の音質が連続的に変化する音
- 二つの発音記号を一音ずつ区切るのではなく、一つの軌道として発音する
- 母音連続との違いは、音節核が一つか複数かにある
- 英国式の「8二重母音」は一つの学習モデルであり、すべての英語に共通しない
- アクセントによって始点・終点・単母音化・rとの関係が変わる
- スペル上の母音字の数だけでは二重母音か判断できない
英語の音・発音の全体像へ戻る場合は、親記事英語の音・発音とは?から、母音・音節・強勢・リズムの関係をたどれます。
仕組みから発音練習へつなげるには
発音記号ごとの音声や口の動きを確認する場合は、b-cafeの英語の発音記号一覧の読み方、音節単位で練習する場合は英語のシラブル(音節)の法則とは?が参考になります。つづりと音の関係はフォニックスとは?へ接続できます。
自分の発音を録音して軌道を確認する方法は、be-rize.comの英語の発音は独学で練習できる?、口の形を一度に完成させようとして難しくなる場合はネイティブを真似しても発音できない理由もご覧ください。
まとめ:二重母音は一音節の中にある「母音の動き」
英語の二重母音は、二つの母音を別々に読む音ではありません。一つの音節の中で、舌と唇がある母音位置から別の位置へ連続的に移動する音です。
単母音との違いは音質が動くかどうか、母音連続との違いは音節核が一つか複数かにあります。日本語の「アイ」「アウ」のように拍を分けず、最初の音を土台にしながら終点へ滑ることで、英語の一音節としてまとまります。
そして二重母音の数や表記は、英国英語・米国英語・その他のアクセントによって変わります。8つという一覧を暗記するだけでなく、「一つの音節の中を動く軌道」として理解することが、英語の音の世界を捉える近道です。








