
wearを「着る」と覚えても、帽子、眼鏡、靴、香水まで英語ではwearを使います。単語学習が難しいのは記憶力が弱いからだけでなく、言語ごとに世界の切り分け方が違うからです。
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今井むつみとは
今井むつみは、認知心理学・発達心理学・言語心理学を専門とする研究者です。慶應義塾大学で長く研究・教育を行い、語彙が心の中でどのように表象され、子どもや外国語学習者がどう習得するかを研究してきました。
単語は物に貼るラベルではない
子どもが「犬」という語を一度聞いたとき、その音が目の前の犬だけを指すのか、動物全体か、色や動作かは本来わかりません。状況、他の語、既存知識を使って仮説を立て、修正しながら語の範囲を学びます。
しゅみすけ(大山俊輔)
母語と外国語でカテゴリーがずれる
日本語の「着る・履く・かぶる」と英語のwear、英語のbrotherと日本語の「兄・弟」のように、言語は同じ現実を別の境界で分類します。訳語だけを暗記すると、母語の境界をそのまま英語へ持ち込みます。

語彙はネットワークとして育つ
一語は、上位語・下位語、類義語、反意語、よく一緒に使う語、出来事の知識とつながっています。borrowならlendとの視点の違い、moneyやbookとの結びつき、返却を前提とする出来事まで学びます。
効果的な英単語学習
- 短い日本語訳で入口を作る
- 画像や実演で中心場面をつかむ
- 異なる文脈の例文を3つ読む
- 似た語との境界を比較する
- 自分の経験を使って例文を作る
- 時間を空けて取り出す
オノマトペと身体経験
今井の研究は、音と意味の結びつきが完全に恣意的とは限らないことにも注目します。動きや感触を表す語は、音象徴が意味推測を助ける場合があります。外国語でも、音・動作・感覚を組み合わせると記憶の手がかりが増えます。
注意点
「文脈だけで自然に覚える」と基礎語彙の明示学習を否定する必要はありません。単語帳の効率と、豊かな文脈で境界を修正する学習を組み合わせるのが現実的です。
しゅみすけ(大山俊輔)
英語や言語を研究してきた人物を、世界の言語学と日本の英学・翻訳・教育という二つの流れからたどる場合は、中間ガイド「言語を研究した人々|英語・言語学の歴史を変えた研究者・英学者」をご覧ください。
まとめ
今井むつみの研究は、語彙習得を訳語暗記ではなく、世界のカテゴリーを作る学習として示します。訳を入口に、複数の場面、類義語との境界、身体経験、使用を重ねることで、単語は孤立したカードから使えるネットワークへ変わります。
今井むつみの研究者としての歩み
今井は慶應義塾大学で学んだ後、米国ノースウェスタン大学で心理学の博士号を取得しました。認知科学の立場から、子どもが限られた経験から語の意味を推論する仕組み、言語が思考へ与える影響、外国語の語彙学習などを研究してきました。
研究成果を教育現場へつなぐ活動にも力を入れ、「学ぶとは知識を受け取ることではなく、自分で仮説を作り修正すること」という探究的な学習観を一般向けに伝えています。
語彙学習のパラドックス
知らない語を学ぶには、その語がどの対象や概念を指すか知る必要があります。しかし概念の範囲を知るには、語がどの場面で使われるかを知らなければなりません。学習者はこの循環を、仮説と修正によって乗り越えます。
一度の説明で完全な定義を得るのではなく、「この場面ではこう使うらしい」と仮置きし、別の用例に出会うたび境界を広げたり狭めたりします。
子どもはどう推論するのか
新しい名詞を聞くと、目立つ一部分より物全体の名前だろう、すでに名前を知る物より未知の物を指すだろう、同じ形の物へ広げられるだろう、といった推論を使うことがあります。これらは万能規則ではなく、状況・言語・経験で変化します。
外国語学習者も、母語のカテゴリーと文脈から推測します。その推測が役立つ場合もあれば、wearを「着る」だけに狭めるようなずれも生みます。
具体例でカテゴリーの違いを見る
putと「置く」
putは物をある位置や状態へ移す広い動詞です。Put the book on the table.だけでなく、Put your name here.、Put the milk in the fridge.にも使います。
knowと「知る・わかる」
I know her.は人を知っている、I know the answer.は答えを知っている。一方「わかりました」は場面によりI understand.、Got it.、Okay.などへ分かれます。
makeと「作る」
makeは物の作成だけでなく、make a decision、make a mistake、make me happyのように出来事や状態変化を表します。
語彙ネットワークを作る5方向
- カテゴリー:animal → dog → poodle
- 対立:borrow ↔ lend
- 連語:make a decision / heavy rain
- 出来事:restaurant → menu, order, bill, tip
- 感情・評価:slim / skinny
新語を覚えるたび、少なくとも二つの方向へ線を引くと、取り出す経路が増えます。
英単語の例文を増やす
wearなら、次のように対象を変えます。
- She is wearing a blue dress.
- He wears glasses at work.
- I wore new shoes yesterday.
- She was wearing a warm smile.(比喩的用法)
典型例だけでなく境界に近い例を見ると、語の守備範囲が広がります。
しゅみすけ式:知らない単語を知っている語で囲む
一語が出なければ、上位カテゴリー、特徴、用途を基本語で説明します。
- thermometer → a tool that tells you how hot or cold something is
- receipt → a piece of paper that shows what you paid for
- stubborn → not willing to change your mind
この説明活動は、会話を止めないだけでなく、新語を既存ネットワークへ接続します。
オノマトペと音象徴
言語記号は多くの場合恣意的ですが、音が動き・大きさ・感触の印象と結びつく場合があります。日本語のオノマトペは、子どもが動作の違いへ注意を向ける手がかりになりえます。英語でもbang、buzz、clickなど、音と経験を結びつけて学べる語があります。
今井の研究を誤用しないために
「訳語暗記は無意味」「子どものように自然に学べばよい」という結論ではありません。大人は母語、辞書、明示的説明を効率的に使えます。重要なのは、一対一訳を暫定的な入口と理解し、用例によって意味範囲を更新し続けることです。
一週間の語彙学習
- 5語を選び、短い訳を確認する
- 各語の異なる例文を3つ集める
- 似た語・反対語と比較する
- 自分の経験で一文作る
- 絵や動作で再現する
- 翌日と一週間後に思い出す
- 会話で一語だけ意識して使う
語彙テストを学習へ変える
四択で訳を選べても、会話で使えるとは限りません。認識、想起、使用を分けて確認します。
- 英語を見て意味がわかる
- 日本語や場面から英語を思い出せる
- 適切な文型・連語で使える
- 似た語との違いを説明できる
一語につき全段階を一度に完成させず、重要語から深く育てます。
よくある質問
単語帳は使わないほうがよいですか?
頻出語との最初の出会いを増やすには便利です。訳語だけで完成とせず、実際の文章で再会し、意味範囲を修正します。
一日に何語覚えるべきですか?
目的と復習時間によります。大量に浅く認識する語と、少数を会話で使えるまで深める語を分けると現実的です。
絵で覚えにくい抽象語はどうしますか?
典型的な出来事、反対語、原因と結果、個人的経験へ結びつけます。responsibilityなら、職場で自分が担当する具体的行動を例文にします。









