
英語学習を始めたときは意欲があったのに、仕事が忙しくなると止まる。一方で、毎日楽しそうに勉強しているわけではないのに、淡々と続けられる人もいます。この違いを「意志が強いか、弱いか」だけで説明することはできません。
第二言語習得研究では、動機づけを、学ぶ目的、自己決定の度合い、未来の自己像、授業や教材の経験、周囲との関係などが組み合わさり、時間とともに変化する仕組みとして捉えます。
英語学習の動機づけは、単なる「やる気の量」ではありません。なぜ学ぶのか、どれだけ自分で選んでいるか、上達を感じられるか、どんな英語使用者になりたいか、今日の学習経験がどうだったかが学習行動に関係します。長く続けるには、強い感情を待つより、目的を自分の価値と結びつけ、達成可能な行動と進歩の証拠を設計する方が現実的です。
しゅみすけ(大山俊輔)
Contents
第二言語習得における「動機づけ」とは?
研究上の動機づけは、「英語が好き」という感情だけを指しません。おおまかには、行動を始める理由、行動へ向ける努力、継続しようとする力を扱います。
| 動機づけに関わる問い | 英語学習の例 |
|---|---|
| なぜ学ぶのか | 仕事、旅行、試験、人との交流、自己表現 |
| 誰が決めたのか | 自分で選んだ/必要性を納得した/周囲に強制された |
| 何を目指すのか | 会議で説明する、海外の友人と話す、本を原文で読む |
| 今の経験はどうか | 教材が合う、講師に理解される、進歩が見える |
| 行動へつながっているか | 学習時間、課題への集中、発話への参加、継続 |
動機づけは重要ですが、それだけで習得が決まるわけではありません。利用できる時間、教材の質、指導、言語適性、記憶、学習方略、英語を使う機会、不安なども関係します。「本気なら必ず伸びる」という精神論にはできません。
Gardnerの社会教育モデル|「何のために学ぶか」
第二言語の動機づけ研究に大きな影響を与えたのが、Robert C. Gardnerらの社会心理学的研究です。よく知られる整理に、統合的志向(integrative orientation)と道具的志向(instrumental orientation)があります。
| 志向 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 統合的志向 | 対象言語の話者や文化に近づき、交流・参加したい | 海外の友人と深く話したい、英語圏の文化を理解したい |
| 道具的志向 | 実用的な目標を達成する手段として学ぶ | 昇進、試験、留学、仕事上の必要に備える |
ここで注意したいのは、二つを「良い動機/悪い動機」に分けないことです。仕事や試験のために始めても、その必要性を本人が大切な価値として受け止め、強い努力へつなげることはあります。また、一人の学習者が複数の志向を持つのが普通です。
英語が世界的な共通語として使われる現在は、特定の英語母語話者集団へ同化するイメージだけでは説明しにくい学習者も増えました。そこで研究の焦点は、より広いアイデンティティ、自己決定、未来の自己像、実際の学習経験へ広がっていきます。
自己決定理論|外発的動機づけも一種類ではない
Edward DeciとRichard Ryanの自己決定理論(Self-Determination Theory)を第二言語学習へ応用した研究では、「楽しいから学ぶ」内発的動機づけと、「外から求められる」外発的動機づけを単純な二択にしません。外発的な理由にも、自分で納得して取り込んだものから、罰や評価に押されるものまで段階があります。
| 調整のされ方 | 学習者の感覚 | 英語学習の例 |
|---|---|---|
| 外的な統制 | やらされている | 怒られるから、会社に命令されたから |
| 内側の圧力 | やらないと罪悪感がある | 勉強しない自分はだめだと思う |
| 価値への納得 | 自分にとって必要だと分かる | 海外顧客と直接話せることが仕事上重要だ |
| 内発的な関心 | 活動自体が面白い | 英語で新しい表現を発見するのが楽しい |
同じ「仕事のため」でも、強制されている感覚と、自分の人生に必要だと納得している状態は異なります。Noelsらの研究は、第二言語学習の理由を自己決定の連続体から捉え、教師の対人スタイルや学習者の自律性との関係を検討してきました。
自律性・有能感・関係性
自己決定理論では、人の動機づけやウェルビーイングを支える基本的心理欲求として、次の三つを重視します。
- 自律性:自分の行動を自分で選び、納得している感覚
- 有能感:課題に対応でき、進歩している感覚
- 関係性:教師や仲間に理解され、つながっている感覚
自由放任にすれば自律性が高まるわけではありません。選択肢を用意し、目的を説明し、達成可能な課題と具体的なフィードバックを提供することが、自律性と有能感の両方を支えます。
L2 Motivational Self System|未来の「英語を使う自分」
Zoltán Dörnyeiが提案したL2 Motivational Self Systemは、第二言語学習の動機づけを自己像から捉える影響力の大きな枠組みです。主に次の三要素から構成されます。
| 要素 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 理想L2自己 | 将来こうなりたいという英語使用者としての自己像 | 海外の同僚と対等に議論する自分 |
| 義務L2自己 | 周囲の期待や義務から、こうなるべきだと感じる自己像 | 昇進のためTOEICで一定点を取るべき自分 |
| L2学習経験 | 授業、教師、仲間、教材、成功・失敗など現在の経験 | レッスンで伝わった、教材が難しすぎた |
メタ分析では、理想L2自己とL2学習経験は「努力するつもり」と比較的強く関連し、義務L2自己の関連は弱い、または一貫しにくい傾向が報告されています。ただし、未来像を鮮明にすれば自動的に英語が伸びるわけではありません。意図した努力と、実際の行動や到達度も同じではありません。

有力なモデルにも測定上の議論がある
L2 Motivational Self Systemは広く使われていますが、近年は尺度が本来の「現実の自分と理想・義務の自己との差」を十分測れているか、似た概念に別名をつけていないか、反証可能性が明確か、といった批判もあります。
したがって、「理想の自分を思い描けば成功する」という自己啓発的な結論へ飛躍せず、未来像、日々の学習経験、自律性、技能、実行環境を組み合わせて見る必要があります。
動機づけは固定された性格ではなく変化する
同じ人でも、学習開始時、停滞期、試験前、海外で英語が通じた後では動機づけが変わります。一日の中でも変動します。成功経験が「もっと話したい」を生む一方、課題が難しすぎたり、否定的な評価を恐れたりすると、参加や努力が弱まることがあります。
つまり、動機づけは習得を支える原因であると同時に、学習結果から影響を受ける結果でもあります。前の記事で扱った第二言語不安と同様、一方向の矢印ではなく循環として考えるのが重要です。
英語学習を続ける仕組みを作る7つの方法
1.目的を「自分にとっての価値」まで掘る
「仕事で必要」で止めず、「誰と、何を、どうできるようになりたいか」を具体化します。たとえば「海外チームの会議で、自分の判断理由を二分で説明する」のように、英語の先にある行動を言葉にします。
2.未来像を今日の行動へ翻訳する
理想像だけでは行動になりません。「英語でプレゼンする自分」を目指すなら、今日の行動を「冒頭30秒を録音する」に変換します。未来像と一週間以内の課題を結びつけます。
3.選択肢を残す
時間、教材、話題、課題の順番など、少なくとも一部を自分で選べるようにします。自律性は「好きなことだけする」ことではなく、必要な課題を含めて自分で納得して引き受ける感覚です。
4.進歩を行動で測る
「英語ができるようになった気がしない」ではなく、聞き返せた回数、話した秒数、学習した日数、言い直して伝えられた例を記録します。小さな進歩の証拠は有能感を支えます。
5.課題の難易度を調整する
簡単すぎれば退屈し、難しすぎれば無力感が強まります。理解できる部分があり、少し努力すれば達成できる課題へ調整します。難易度を下げることは逃げではなく、継続可能な負荷設計です。
6.人との約束と支援を使う
講師、仲間、コーチとの関係は、単なる監視とは異なります。学ぶ理由を理解してもらい、進歩を共有し、困ったときに課題を調整できる関係が継続を支えます。
7.「最低ライン」を決める
気分のよい日に最大量を決めるのではなく、忙しい日でもできる最小行動を作ります。例は「英語を一文音読する」「昨日の表現を一つ思い出す」です。動機づけが低い日も行動との接点を切らない設計です。
しゅみすけ(大山俊輔)
教師・コーチ・スクール側が避けたいこと
- 続かない理由を本人の意志の弱さだけにする
- 点数や罰だけで長期的に動かそうとする
- 本人の目的を聞かず、全員へ同じ目標を与える
- 達成できない大きな課題を繰り返し課す
- 他の学習者との比較で焦らせる
- 未来像を描かせるだけで、行動計画と支援を作らない
外からの期限や評価が短期的な行動を生むことはあります。しかし、それだけに依存すると、外的圧力がなくなったときに行動も止まりやすくなります。目的の説明、選択肢、適切な挑戦、具体的なフィードバック、安心できる関係を組み合わせることが重要です。
よくある質問
内発的動機づけがなければ英語は伸びませんか?
そんなことはありません。仕事や試験など外発的な理由でも、その価値を自分で理解し、納得して取り組めれば継続的な行動につながりえます。活動そのものを毎日楽しめる必要はありません。
統合的動機づけと内発的動機づけは同じですか?
同じではありません。統合的志向は対象言語の話者・文化・コミュニティへ近づきたいという方向性、内発的動機づけは活動自体を面白い・満足だと感じる状態です。関連する場合はありますが、異なる理論上の概念です。
理想L2自己を思い描けば学習は続きますか?
未来像は方向づけに役立ちますが、それだけでは不十分です。具体的で本人にとって意味があり、達成可能だと感じられ、今日の行動計画や支援環境と結びついている必要があります。
モチベーションが落ちた日は休んでもよいですか?
休息が必要な日はあります。重要なのは、一日の低下を長期的な失敗とみなさないことです。完全に休むか、最低ラインだけ行うかを状況に応じて選び、翌日に戻れる仕組みを作ります。
そもそも英語を学ぶ意味が分からなくなったら?
以前の目的が現在の生活と合わなくなっている可能性があります。目標を維持すること自体を目的にせず、今の価値観から学ぶ理由を見直してください。関連して大人が英語を学ぶ意味も参考になります。
まとめ|強い「やる気」より、価値・経験・行動の接続
- 動機づけは、やる気の量だけでなく、理由・方向・努力・継続を含む
- 統合的志向と道具的志向は対立する良し悪しではなく、併存しうる
- 外発的な目的でも、価値を自分で取り込めば自己決定性は高まる
- 理想L2自己、義務L2自己、現在の学習経験は異なる役割を持つ
- 動機づけは習得へ影響し、成功・失敗や環境からも影響を受ける
- 未来像を小さな行動、進歩の証拠、支援関係へつなげることが重要
英語学習を続けられる人は、いつも情熱にあふれているとは限りません。学ぶ理由を自分の価値とつなぎ、今の生活で実行できる大きさへ変え、進歩を見える形にし、止まっても戻れる仕組みを持っています。動機づけを待つのではなく、動機づけが育つ条件を作っていきましょう。
参考文献
- Noels, K. A., Pelletier, L. G., Clément, R., & Vallerand, R. J. (2000). Why Are You Learning a Second Language? Motivational Orientations and Self-Determination Theory.
- Al-Hoorie, A. H. (2018). The L2 Motivational Self System: A Meta-Analysis.
- Al-Hoorie, A. H., Hiver, P., & In’nami, Y. (2024). The Validation Crisis in the L2 Motivational Self System Tradition.
- Papi, M. et al. (2019). Rethinking L2 Motivation Research: The 2 × 2 Model of L2 Self-Guides.
第二言語習得論を体系的に読む
インプット・相互作用・アウトプット・認知/記憶・社会/文脈の主要理論は「第二言語習得論の主要理論・仮説一覧」にまとめています。









