
英語を話す番が近づくと心拍が上がる。知っているはずの単語が出ず、終わった後になって簡単な表現を思い出す——。これは能力だけでは説明できません。第二言語を学び、使う場面に特有の第二言語不安(second language anxiety)が関係している可能性があります。
第二言語不安は、英語などの第二言語を学習・使用するときに生じる、心配・緊張・自己評価への脅威を含む反応です。研究では、不安が高いほど第二言語の成績が低いという中程度の負の関連が確認されています。ただし、これは「不安がすべての原因」という意味ではありません。不安が処理や参加を妨げる方向と、うまくできない経験が不安を強める方向の両方を考える必要があります。
しゅみすけ(大山俊輔)
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第二言語不安・外国語不安とは?
第二言語不安は、母語以外の言語を学んだり使ったりするときに生じる不安です。学校で外国語として学ぶ文脈では、外国語不安(foreign language anxiety)や外国語教室不安(foreign language classroom anxiety)という言葉もよく使われます。
1986年、Elaine K. Horwitz、Michael B. Horwitz、Joann Copeは、外国語教室に特有の不安を整理し、33項目からなるForeign Language Classroom Anxiety Scale(FLCAS)を提示しました。この研究は、外国語不安を一般的な「あがり症」だけに還元せず、言語学習という状況に結びついた独自の経験として研究する大きな契機になりました。
| 関連する側面 | 英語学習での現れ方 | 注意点 |
|---|---|---|
| コミュニケーションへの不安 | 即答できない、人前で話せない、聞き返すのが怖い | 会話場面だけでなく聞き取りにも表れうる |
| 否定的評価への恐れ | 先生や他の学習者に「英語ができない」と思われるのが怖い | 間違いそのものより、他者の評価が気になる |
| テストに関する不安 | 点数、指名、時間制限で緊張が強まる | 一般的なテスト不安とも重なる |
これらはHorwitzらが概念を説明する際に結びつけた側面です。ただし、FLCASが常に三つの独立した下位尺度にきれいに分かれる、と固定して考えるべきではありません。その後の研究では、対象言語、文化、年齢、授業形態によって尺度の構造が異なる可能性も議論されています。
なぜ英語を話すと頭が真っ白になるのか
1.不安に注意を奪われる
会話中に「間違えたらどうしよう」「相手は退屈していないか」と考えると、その心配自体に注意が向きます。本来なら相手の発話を保持し、単語を検索し、文を組み立てるために使う処理資源が競合します。
MacIntyreとGardnerは、不安が第二言語処理の入力・処理・出力の各段階に関係しうることを実験的に検討しました。会話で言葉が出ない現象は出力だけの問題に見えますが、聞いた情報の取り込みや記憶中の処理にも影響が及ぶ可能性があります。作業中の情報保持との関係は、ワーキングメモリと第二言語習得でも解説しています。
2.参加や発話を避け、練習機会が減る
強い不安が続くと、指名されないようにする、短い答えだけで終える、英語を使う場面を避ける、といった行動につながることがあります。すると、意味のある発話、フィードバック、成功経験を得る機会が減ります。
3.失敗経験が次の不安を強める
不安のある状態で十分に話せなかった経験を「私は英語が苦手だから」と解釈すると、次の場面をより脅威に感じやすくなります。一方で、もともとの語彙・文法・聞き取りの難しさが失敗を生み、そこから不安が高まることもあります。したがって、原因を一方向に決めつけることはできません。

第二言語不安は英語の成績にどれくらい関係する?
Teimouri、Goetze、Plonskyは、23か国、105の独立標本、合計19,933人を含む研究をメタ分析しました。その結果、第二言語不安と到達度の間には、全体としてr = −.36の負の相関が報告されました。一般に、不安が高い学習者ほど成績や熟達度が低い傾向がある、という意味です。
ただし、相関係数だけから因果関係は決められません。さらに、自己評価による熟達度、客観テスト、授業成績では関連の強さが異なり、読む・聞く・話す・書くなど技能別の不安もあります。「不安があれば必ず伸びない」「緊張しない人だけが成功する」という結論ではありません。
少しの緊張は役立つのか?
適度な覚醒が集中を助ける場合はありますが、「第二言語不安そのものが学習を促進する」と一般化する証拠は慎重に扱う必要があります。期限前の緊張が準備を促すことと、心配や評価への恐れが認知処理を妨げることは同じではありません。強さだけでなく、その感情を本人がどう捉え、どんな行動につなげるかも重要です。
不安が高まりやすい場面
- 準備なしで突然指名される
- 母語話者のような正確さや速さを求められる
- 他の学習者と比較される
- 間違いを人前で細かく訂正される
- 聞き取れないのに、聞き返す余裕がない
- 内容・文法・発音を同時に完璧にしようとする
- 過去の失敗を、固定的な能力不足だと解釈する
ただし、同じ活動でも不安の感じ方には個人差があります。スピーチを怖いと感じる人もいれば、一対一の自由会話の方が予測できず不安になる人もいます。性別や年齢だけで決めつけるのではなく、どの場面・技能・相手・課題で反応が強まるかを見る方が実用的です。
第二言語不安の悪循環を弱める6つの考え方
1.「能力」と「その場で出せた力」を分ける
不安の強い一回の発話を、英語力全体の判定に使わないことです。準備あり・なし、相手、話題、制限時間を変えると、同じ人でも成果は変わります。
2.課題の難しさを一段下げる
自由会話が難しければ、選択肢のある質問、短い定型表現、準備時間つきの発話から始めます。簡単な課題で参加と成功を重ねた後、発話の長さや即興性を少しずつ上げます。
3.聞き返し・保留・言い直しを「能力」として練習する
Could you say that again?、Let me think for a second.、What I mean is … などは、不安を隠す逃げではなく、会話を維持するための技能です。沈黙を避ける表現を準備すると、処理時間を確保できます。
4.訂正の量とタイミングを調整する
流暢さを練習する時間は、すべての誤りで会話を止めない。正確さを練習する時間は、対象を一つか二つに絞ってフィードバックを受ける。この切り替えにより、「話すたびに評価される」という感覚を弱めやすくなります。
5.比較対象を他人ではなく自分の履歴にする
一週間前より返答が一文長くなった、聞き返した後に会話へ戻れた、といった行動を記録します。不安がゼロになったかではなく、不安があっても参加できたかを見るのがポイントです。
6.安心できる相手と段階的に場面を広げる
慣れた講師との一対一、短いロールプレイ、少人数、初対面との会話というように、負荷を段階化します。オンライン英会話に特化した準備や対策は、既存記事のオンライン英会話で緊張する・怖いと思ったときの4つの対策も参考になります。
しゅみすけ(大山俊輔)
教師・スクール側にできること
- 活動の目的と手順を先に示し、予測可能性を高める
- 準備時間やペア練習を入れてから全体発話へ進む
- 誤りを人格や能力の評価と結びつけない
- 流暢さ活動と正確さ活動でフィードバック方法を変える
- 発話量だけでなく、聞き返しや会話修復も評価する
- 不安を「努力不足」と決めつけず、本人の経験を確認する
介入研究の体系的レビューやメタ分析では、外国語不安を和らげる取り組みに一定の効果が示されていますが、研究ごとに活動内容・期間・対象者が異なります。特定の呼吸法や一つの教授法を万能策とみなすのではなく、環境、課題設計、準備、フィードバックを組み合わせる方が妥当です。
よくある質問
第二言語不安は、単なる性格の問題ですか?
性格傾向と関連する可能性はありますが、それだけではありません。第二言語を使う特定の場面で強く生じる状況特有の不安として研究されています。普段は社交的でも、英語では緊張する人がいても不思議ではありません。
FLCASで点数が高ければ、治療が必要ですか?
FLCASは外国語教室での不安を研究・把握する尺度で、医療上の診断をするものではありません。英語以外の生活にも強い不安が広がり、日常生活に大きな支障がある場合は、語学指導だけで解決しようとせず専門家への相談も選択肢です。
不安をなくしてから英語を話すべきですか?
ゼロになるまで待つ必要はありません。安全性の高い短い課題から始め、不安があっても完了できる経験を積む方が現実的です。ただし、強い苦痛を無視して無理に追い込む必要もありません。
日本人だから英語不安が強いのでしょうか?
外国語不安は日本人に限らず、多くの国・言語の学習者で研究されています。日本の教育経験や評価文化が個人の経験に関係する可能性はありますが、国籍だけで一律に説明できません。より広い背景は日本人はなぜ英語を話せない?で整理しています。
まとめ|不安を能力不足と決めつけず、参加できる条件を作る
- 第二言語不安は、外国語の学習・使用場面に結びついた不安である
- コミュニケーション、否定的評価、テストへの不安と関連する
- 研究では、第二言語不安と到達度に中程度の負の相関がある
- 不安と成績の関係は一方向とは限らず、悪循環になりうる
- 課題の段階化、準備、会話修復表現、フィードバック設計が参加を支える
- 目標は不安ゼロではなく、不安があっても英語を使える範囲を広げること
緊張した場面で出なかった英語だけを見て、自分の能力を低く評価する必要はありません。安心できる条件で「聞けた」「返せた」「言い直せた」という経験を積み、少しずつ場面を広げる。その積み重ねが、不安と回避の循環を、参加と成功経験の循環へ変える土台になります。
参考文献
- Horwitz, E. K., Horwitz, M. B., & Cope, J. (1986). Foreign Language Classroom Anxiety.
- MacIntyre, P. D., & Gardner, R. C. (1994). The Subtle Effects of Language Anxiety on Cognitive Processing in the Second Language.
- Teimouri, Y., Goetze, J., & Plonsky, L. (2019). Second Language Anxiety and Achievement: A Meta-Analysis.
- Xiong, Y. et al. (2024). A Meta-Analysis and Systematic Review of Foreign Language Anxiety Interventions.
第二言語習得論を体系的に読む
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