Basic English・Plain English・やさしい日本語・STEの違い|目的別に比較

Basic English、Plain English、やさしい日本語、Simplified Technical Englishの違いを示す比較イラスト

Basic English、Plain English、やさしい日本語、Simplified Technical English(STE)は、どれも難しい言葉を避け、理解しやすくする試みです。しかし、同じものではありません。

結論を先にいえば、Basic Englishは限られた英語で世界的な意思疎通と学習を支える体系、Plain Englishは一般読者に伝わる文章へ直す原則、やさしい日本語は日本で暮らす外国人などへ情報を届ける方法、STEは技術文書の誤読を防ぐ国際標準です。「簡単にする」という手段は似ていても、対象者と成功条件が違います。

この違いが分からないまま「短い単語だけ使えばよい」と考えると、必要な意味を落としたり、かえって読みにくくしたりします。本記事では4つの仕組みを比較し、どんな場面で何を選ぶべきかを整理します。

4つの「やさしい言葉」の違いを一覧で比較

仕組み 主な目的 主な読者 語彙の扱い 成功の基準
Basic English 英語学習・国際的な意思疎通 英語学習者、異なる母語の話者 850語を核に制限 限られた語で意味を組み立てられる
Plain English 一般向け文書を明確にする 市民、顧客、ウェブ利用者 固定リストなし。日常語を優先 読者が素早く正確に理解し行動できる
やさしい日本語 生活・災害情報などを届ける 日本語を母語としない住民を中心とする多様な人 難語・曖昧表現を言い換える 必要な情報が届き、安全や生活に結びつく
STE 技術文書の誤読を減らす 整備士、技術者、翻訳者 承認語と技術語を規則で統制 一貫性、安全性、翻訳性が高まる

最大のポイントは、易しさは単語そのものの属性ではなく、「誰が、何のために読むか」との関係で決まることです。英語初心者に便利な言い換えが、航空機整備の指示として安全とは限りません。逆に、技術文書で正確な専門語も、一般向けの案内では説明が必要です。

しゅみすけ(大山俊輔)

「簡単な言葉を使う」だけでは不十分です。相手に何を理解してもらい、次に何をしてもらうのか。その目的から言葉を選ぶことが大切です。

Basic English――限られた語彙で意味を組み立てる

Basic Englishは、C・K・オグデンが1920年代から1930年代にかけて体系化した制限英語です。850語を核に、基本動詞や前置詞を組み合わせ、より複雑な意味を言い換えます。

特徴は、単に文章を短くするのではなく、英語という言語の使用範囲そのものに境界を設けた点です。学習者は、無限に見える語彙から先に850語を選び、その内側で表現を作る訓練ができます。

たとえばinvestigateが出てこなくても、look intoやmake an examination ofのように、知っている語へ分解できます。ここでは「難語を易語に置換する」だけでなく、意味を要素へほどく力が重要です。

Basic Englishの仕組みはオグデンが設計した850語の英語、語彙の構造はBasic English 850語一覧で詳しく紹介しています。

Basic Englishが向く場面

  • 英語学習の出発点を明確にしたい
  • 基本動詞や前置詞で言い換える力を鍛えたい
  • 異なる母語の人どうしで最低限の意味を共有したい
  • 「知っている英語でなんとかする」練習をしたい

向かない場面

法律・医療・技術など、定義された専門語を使うほうが正確な場面です。また、850語へ無理に収めると説明が長くなり、読者の認知負荷が増えることがあります。Basic Englishが世界語にならなかった理由は、チャーチルの国際語構想・批判と遺産で考察しています。

Plain English――語彙を制限せず、読者中心に書き直す

Plain Englishは、英語を850語へ制限する体系ではありません。読者が必要な情報を素早く理解できるよう、日常的な語、短い文、見出し、能動態、具体的な指示などを使う文章設計です。

英国政府の文章ガイドも、Plain Englishは内容を過度に単純化したり意味を変えたりすることではないと説明しています。原則は「読者を念頭に置くこと」です。専門的な内容であっても、必要な用語を残し、その用語を説明し、情報の順番を整えます。

分かりにくい表現 Plain English 改善点
Prior to commencement, applicants are required to submit… Before you start, send us… 日常語、直接的な主語、短い文
Failure to comply may result in termination. If you do not follow these rules, we may end the agreement. 何をすれば何が起きるかを明示
For further information, reference should be made to… For more information, see… 名詞化と受動態を減らす

Plain Englishが向く場面

  • ウェブサイト、申込画面、利用規約の案内
  • 行政文書、顧客への通知、社内文書
  • 専門家が一般読者へ説明する文章
  • 読者に次の行動を迷わず選んでほしい場面

Plain Englishの成功は、「何語以内か」ではなく、読者が内容を理解し、必要な行動を取れるかで測ります。ここがBasic Englishとの決定的な違いです。

やさしい日本語――翻訳の代わりではなく、情報を届ける橋

やさしい日本語は、日本語を母語としない人にも分かりやすいよう、日本語の語彙・文法・情報量・表記を調整する取り組みです。1995年の阪神・淡路大震災を契機に災害情報の伝達方法として研究が始まり、現在は行政、医療、観光、生活支援など平時にも広がっています。

たとえば「高台へ避難してください」は、「高いところへ逃げてください」のように言い換えられます。ただし、言葉だけ置き換えればよいわけではありません。最も重要な情報を先にする、一文を短くする、曖昧な省略を避ける、漢字にふりがなを付ける、図や多言語情報と組み合わせる、といった配慮が必要です。

また、やさしい日本語は外国人だけのための幼稚な日本語ではありません。子ども、高齢者、障害のある人、災害時に長い文章を処理できない人など、多様な読者に役立ちます。一方で、相手の日本語力を勝手に低く見積もり、子ども扱いする態度にならないよう注意が必要です。

研究者・庵功雄の議論と実践については、「やさしい日本語」は短くするだけではないでも紹介しています。

Simplified Technical English――「読みやすさ」より安全を守る統制

Simplified Technical English(ASD-STE100)は、技術文書を書くためのcontrolled natural language(統制自然言語)です。1970年代末に航空機の整備文書を理解しやすくする目的で始まり、現在は航空宇宙・防衛以外にも使われています。公式サイトによれば、現行版は2025年1月公開のIssue 9です。

STEは一般的な「分かりやすく書きましょう」という助言より厳密です。Part 1のWriting RulesとPart 2のcontrolled dictionaryから構成され、使用できる一般語、語義、品詞、文法や書式を管理します。原則として、一つの語を一つの意味・一つの品詞で使い、曖昧さを減らします。必要なtechnical nounとtechnical verbは、組織や分野で管理して加えます。

一般英語 STE的な考え方 理由
Turn off the switch before you work on the unit. Set the switch to OFF before you do the work. 操作と状態を明確にする
Check that the valve is not leaking. Make sure that there is no leakage from the valve. 検査対象を一貫させる
Remove it carefully. Carefully remove the filter. 代名詞の指示対象を明示する

STEの目的は英語学習ではなく、安全で一貫した技術文書を作ることです。公式の研修案内も、STEは書き手にとって簡単な英語ではなく、十分な英語力と専門知識が必要だと説明しています。読者の負担を減らすために、書き手側が厳しく考える仕組みなのです。

4つに共通するもの、決定的に違うもの

英語学習、一般読者、日本の生活情報、技術文書の目的別にやさしい言葉を選ぶ図

共通点

  • 書き手の表現力より、読み手の理解を優先する
  • 難語、長文、曖昧な表現を減らす
  • 情報を分解し、重要な内容を明示する
  • 「自分には分かる」ではなく「相手に届くか」を基準にする

決定的な違い

  • Basic Englishは、使用する英語の語彙体系を絞る
  • Plain Englishは、固定語彙より読者と目的を優先する
  • やさしい日本語は、日本社会における言語アクセスを重視する
  • STEは、技術文書の安全性と一貫性を規則で保証する

つまり、Basic EnglishとSTEはどちらも制限言語に近いものの、前者は学習と国際的な意思疎通、後者は技術作業の安全が中心です。Plain Englishとやさしい日本語は読者中心という点で近いものの、後者には日本語を母語としない住民との共生や災害時の情報保障という社会的背景があります。

目的別――どの仕組みを選べばよいか

あなたの目的 中心に据える考え方 補助的に借りられる知恵
初心者が英語を話せるようにする Basic English Plain Englishの読者中心設計
英語の申込ページを分かりやすくする Plain English STEの一語一義・一貫性
外国人住民へ避難情報を届ける やさしい日本語+多言語 Plain Englishの情報順序
整備マニュアルの誤読を防ぐ STE Plain Englishの可読性
英語を言い換える力を鍛える Basic English Plain Englishの具体性

実務では、一つだけを純粋に使う必要はありません。英語学習ならBasic Englishの語彙制限を土台にしながら、Plain Englishの「読者が必要とする順に話す」を取り入れられます。行政情報ならやさしい日本語を中心にしつつ、必要な専門語は削らず説明を添え、多言語版や図記号へつなげられます。

しゅみすけ(大山俊輔)

語彙を減らすこと自体が目的ではありません。相手が意味を受け取り、自分で判断できる状態をつくることが目的です。英語コーチングでも、答えを単純化するのではなく、学習者が扱える形まで分解することが重要だと考えています。

「やさしい」は内容を薄くすることではない

4つの取り組みが教えてくれるのは、簡単な言葉とは「子ども向けの薄い内容」ではないということです。専門性を保ちながら理解可能にするには、書き手が情報の構造、語の意味、読者の知識、行動の流れを深く理解しなければなりません。

Basic Englishは、語彙を絞ることで言い換える力を見せました。Plain Englishは、正確さと分かりやすさを対立させず、読者から文章を設計します。やさしい日本語は、言語の壁が命や生活の格差になることを示します。STEは、一語の曖昧さが安全上の問題になる現場で、言葉を標準化します。

「分かりやすくする」とは、意味を捨てることではありません。意味を守ったまま、相手が扱える形へ組み替えることです。この共通原理こそ、オグデンのBasic Englishから現代の文章設計や英語コーチングへつながる、最も大きな遺産なのではないでしょうか。

参考資料

Basic EnglishがPlain Englishなどと異なり、使用語彙そのものを制限できた鍵は18のoperatorにあります。オグデンが動詞を減らした理由をご覧ください。

オグデンの人物、850語の設計、実験、辞書、世界語構想、生成AIまでシリーズ全体を順番に読む方は、C・K・オグデンとBasic English完全ガイドをご覧ください。

Plain Englishとは別に、辞書の説明に使う語を制御する仕組みは、Oxford 3000とLongman 2000――定義語彙はオグデンの後継かで比較しています。

Basic EnglishをNSM・Minimal Englishと比較し、「少ない言葉」を意味分析から考える場合は、Basic English・NSM・Minimal Englishの違いをご覧ください。

この記事を書いた人
しゅみすけ(大山俊輔)

b わたしの英会話および英語コーチングGRIT/be:RIZE代表。米国MBA取得、外資系企業4社での勤務経験を持ち、これまで多くの大人の英語学習を支援。日本語と英語の処理構造の違いに着目した「英語OS」の考え方をもとに、独学で伸び悩む人の学び直しをサポートしています。

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