
同じ難語をBasic English 850語、Longmanの約2000語、Oxford 3000の範囲で定義すると、語彙が広いほど説明は短く自然になりました。今回選んだdemocracy、photosynthesis、resilienceの3語では、定義部分の合計が850語版58語、2000語版49語、3000語版39語でした。
ただし、最も短い定義が、すべての学習者に最もやさしいとは限りません。3000語版は専門的な語を使って正確に圧縮できますが、その語を知らなければ止まります。850語版は少し回りくどくても、意味を動き・物・関係へ分解して見せます。今回は、この違いを同じ対象、同じ判定方法で比べます。
しゅみすけ(大山俊輔)
Contents
今回の実験条件
比較したのは、前の記事で整理した三つの語彙枠です。
- Basic English 850:オグデンの850語を中心に、英語そのものを小さく運用する
- Longman約2000:学習辞書の定義を書くための制限語彙を想定する
- Oxford 3000:頻度・有用性から選ばれたA1~B2の学習優先語を使う
三者の目的と歴史の違いは、Oxford 3000とLongman 2000はオグデンの後継かで解説しました。今回は歴史ではなく、定義文が実際にどう変わるかへ焦点を当てます。
対象語は、政治制度のdemocracy、自然科学のphotosynthesis、心理・物性の両方で使われるresilienceです。見出し語そのものは各語彙表に含まれなくても「説明される対象」として使用可にしました。定義文については通常の機能語、複数形、時制変化、明確な派生形を許容しています。
ここに掲載する英文は、市販辞書から転載した定義ではありません。それぞれの語彙範囲を想定して今回作成した比較用の英文です。また、Longman Defining Vocabularyには品詞・語義・派生語の運用規則があり、Oxford 3000にも語義ごとのCEFR情報があります。したがって、これは辞書編集の完全な再現ではなく、条件をそろえた再現可能な小規模実験です。
結果の概要――58語、49語、39語
| 語彙枠 | democracy | photosynthesis | resilience | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| Basic English 850 | 24語 | 23語 | 11語 | 58語 |
| Longman 約2000 | 13語 | 23語 | 13語 | 49語 |
| Oxford 3000 | 13語 | 16語 | 10語 | 39語 |

語彙が850から3000へ広がるにつれて、3語の合計は19語短くなりました。特にdemocracyとphotosynthesisでは、選挙や二酸化炭素に相当する語を直接使えるかどうかが大きく影響します。一方、resilienceはBasic Englishでも短く表せました。概念によって、語彙制限の影響は異なります。
図の「自然さ」「精度」などは、今回の定義を相対比較した編集上の評価です。統計的な学習者調査の点数ではありません。誰にとって分かりやすいかは、その人が各定義語を知っているかによって変わります。
実験1――democracyをどう定義するか
Basic English 850
Democracy is a system of government in which the persons of a country have a part in the selection of those who make its laws.
24語です。vote、election、leaderを使わず、government、country、selection、lawの関係へ分解しました。「国の人々が、法律を作る人の選択に参加する制度」という構造です。選挙という一語を避けた分、民主主義の仕組みを動作として見せています。
弱点は、have a part in the selectionが現代の日常英語として少し硬く、民主主義に含まれる自由、権利、多数決などまでは説明していないことです。ただし、一文の入口としては制度の中心を捉えています。
Longman 約2000
Democracy is a system of government in which people choose their leaders by voting.
13語です。people、choose、leader、voteを使えるため、一気に短く自然になります。「誰が何をする制度か」が明確で、学習者向けの定義としてバランスがよい形です。
Oxford 3000
Democracy is a system in which people choose their government by voting in elections.
13語です。electionを直接使えるため、政治制度としての精度が上がります。しかしelectionを知らない初級学習者には、その語をもう一度調べる必要があります。短さは、読み手がすでに持つ語彙に支えられています。
実験2――photosynthesisは専門語なしで説明できるか
Basic English 850
Photosynthesis is the process by which green plants make food from water and air with the help of light from the sun.
23語です。植物が水と空気から、太陽の光を使って食物を作る過程、と説明しました。carbon dioxideという専門語をairへ広げているため、初心者には分かりやすい一方、科学的な精度は下がります。空気のすべてを材料にするわけではないからです。
Longman 約2000
Photosynthesis is the process in which green plants use light from the sun to make food from water and a gas in the air.
23語です。語数はBasic English版と同じですが、a gas in the airとすることで、空気中の特定の気体を使うことを示しました。専門名を避けながら誤解を少し減らす、中間的な定義です。ただし、その気体が何かは分かりません。
Oxford 3000
Photosynthesis is the process by which green plants use sunlight to make food from carbon dioxide and water.
16語です。sunlightとcarbon dioxideを使うことで7語短くなり、科学的にも精密になりました。専門語を知る読み手には最も明快です。一方、carbon dioxideを知らなければ、定義の中心で理解が止まります。
ここでは「簡単な語だけで説明する」と「教科として正確に説明する」の緊張が最も強く出ました。対象読者が理科を初めて学ぶ子どもなのか、B2レベルの英語学習者なのかで、最適な定義は変わります。
実験3――resilienceは850語でも短い
Basic English 850
Resilience is the power to be strong again after trouble or damage.
11語です。power、strong、again、trouble、damageという基本語だけで、困難や損傷の後に強さを取り戻す性質を表しました。心理的回復にも、物が元の状態へ戻る性質にもある程度対応できる広い定義です。
Longman 約2000
Resilience is the ability to become strong, healthy, or successful again after difficulty.
13語です。healthyとsuccessfulを加えることで、人や組織が回復する場面を具体化しました。その代わり、素材が形を戻すような物理的意味は弱くなります。長くなっても、説明対象の一部は狭くなる例です。
Oxford 3000
Resilience is the ability to recover quickly after difficulty or change.
10語です。recover一語が「再びよい状態になる」を圧縮するため、最も短く自然です。ただしrecoverを知らない人にとっては、Basic English版のbe strong againのほうが透明でしょう。
語彙が広いほど、なぜ短くなるのか
説明文の語数が減った最大の理由は、より専門的な「圧縮語」を使えるからです。electionは「人々が代表を選ぶ手続き」を、carbon dioxideは「空気中にある特定の気体」を、recoverは「悪い状態から再びよくなる」を一語または一まとまりで表します。
| 広い語彙で使える語 | 基本語へ分解すると |
|---|---|
| election | the selection of persons who make laws |
| carbon dioxide | a gas in the air |
| recover | be strong or well again |
専門語は意味を隠す壁にもなりますが、共有されていれば非常に効率的な箱になります。Basic Englishは箱を開け、中にある関係を見せます。Oxford 3000は、学習が進んだ人に使える箱を増やします。Longmanの約2000語は、その中間で辞書の自然さと理解可能性を調整します。
「やさしい定義」を決める四つの軸
今回の実験から、定義のやさしさは語数だけでなく、少なくとも四つの軸で見る必要があります。
- 語彙の既知率:定義中の単語を読み手が知っているか
- 文の短さ:記憶しながら最後まで読める長さか
- 意味の透明性:基本語の組み合わせから場面を想像できるか
- 内容の正確さ:簡単にする過程で重要な条件を落としていないか
Basic Englishは既知率と透明性を上げやすい反面、長さと精度に負担がかかります。Oxford 3000は短さと自然さを得やすい反面、B1・B2語が未習なら理解が止まります。Longman方式は、その間で辞書編集者が語義と文型を調整する設計です。
英語学習では三段階で使える
この比較は、どの語彙表が一番優れているかを決めるものではありません。学習では三段階に重ねると使えます。
- 第1段階:Basic English的に、知っている語で意味を分解する
- 第2段階:約2000語の範囲で、自然で短い説明へ整える
- 第3段階:Oxford 3000の語を加え、正確な名前や圧縮語を覚える
たとえばrecoverが出てこなくても、be strong againと言えれば会話は続きます。その後でrecoverを知れば、すでに持っている意味のネットワークへ新しい一語を載せられます。これは英語の言い換えトレーニングと、基本動詞をコアイメージから学ぶ方法をつなぐ考え方です。
しゅみすけ(大山俊輔)
生成AIで個人用の定義語彙を作れる
生成AIを使えば、850・2000・3000だけでなく、「自分が知っている1200語」「中学英語の範囲」「A2まで」のような個人用定義も作れます。ただし、AIへ指示するだけでは範囲外語が混じります。実際に生成AIはBasic Englishの850語制限を守れるかで検証したところ、語彙表の提示と機械監査が必要でした。
実用的には、語彙表を渡す、定義を生成する、範囲外語を照合する、修正する、最後に人間が意味を確認する、という手順になります。語彙違反が0でも、photosynthesisをairだけで説明したように、内容の精度が落ちる可能性があります。語彙監査と意味監査は別々に必要です。
まとめ――短さではなく、読み手との距離を測る
今回の3語では、850語版58語、約2000語版49語、Oxford 3000版39語となり、語彙が広いほど全体は短くなりました。democracyとphotosynthesisでは専門的な圧縮語の効果が大きく、resilienceは850語でも十分短く説明できました。
Basic Englishの価値は、常に最も短い定義を作ることではありません。意味の箱を開けて、基本的な関係として見せることです。Longmanの定義語彙は、それを辞書として自然に運用できる大きさへ調整します。Oxford 3000は、学習者が使える圧縮語を段階的に増やします。
やさしい説明とは、語数が少ない説明でも、使用語彙が少ない説明でもありません。読み手が知っている語と、伝えたい精度の間に橋がある説明です。850・2000・3000という三つの枠は、その橋の長さを調整するための異なる道具だと言えるでしょう。
参考資料
- Oxford Learner’s Dictionaries: Oxford 3000 and 5000
- Pearson: Longman Defining Vocabulary
- Ogden’s Basic English Word List
850語・2,000語・3,000語の定義実験からさらに一段深く、「最後の基本語はどう説明するのか」を辞書の循環定義とsemantic primes・自然意味論で検討しました。
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850語側の設計はC・K・オグデンとBasic English完全ガイド、語数を減らす目的そのものの違いはMinimal Englishとは?で詳しく解説しています。









