石黒圭とは?接続詞が文章の「次の展開」を予告する仕組み

石黒圭と文章の読み方―接続詞は次の展開を予告する

文章を読んでいて、一文ずつの意味は分かるのに、全体の話が頭へ入ってこないことがあります。

その原因は、単語や文法だけとは限りません。前の文と次の文がどんな関係にあるのか、書き手がどこへ話を進めようとしているのかを見失っている可能性があります。

この「文章のつながり」を、日本語学・文章論・談話分析の立場から研究してきたのが石黒圭(いしぐろ・けい)です。代表的な著書『文章は接続詞で決まる』は、接続詞を単なる品詞ではなく、書き手と読み手をつなぐ道しるべとして捉え直しました。

本記事では、石黒圭の研究を手がかりに、接続詞が文章の次の展開をどう予告するのか、読み書きと英語学習にどう生かせるのかを解説します。

しゅみすけ(大山俊輔)

接続詞は、文と文を接着するだけの言葉ではありません。「この先は反対です」「ここでまとめます」と、読み手の予測を準備する標識です。

石黒圭とは?文章論・談話分析・日本語教育の研究者

石黒圭は1969年、大阪府生まれ。言語形成期を神奈川県で過ごし、一橋大学で日本語学・日本語教育学の研究と教育に携わったのち、国立国語研究所教授となりました。一橋大学大学院の連携教授、総合研究大学院大学日本語言語科学コースの教育にも関わっています。

専門は、日本語学の文章論・談話分析、日本語教育学の読解研究・作文研究です。一文の中の文法だけでなく、複数の文がどのようにつながり、読み手が情報をどう処理するかを研究しています。

著書には『文章は接続詞で決まる』『「接続詞」の技術』『よくわかる文章表現の技術』『読む技術』『コミュ力は「副詞」で決まる』などがあります。研究成果を、文章を書きたい人、日本語学習者、教師、ビジネスパーソンにも届く形で伝えてきた研究者です。

接続詞はなぜ重要なのか

接続詞は「しかし」「だから」「たとえば」のように、前後の内容の関係を示します。文の中心となる動詞や名詞に比べると、なくても文が成立するため、周辺的な語と思われがちです。

しかし、文章全体を読むときには大きな役割を持ちます。接続詞が現れた瞬間、読み手はまだ読んでいない後続部分を予測できるからです。

  • しかし:前の内容と反対・修正の情報が来る
  • つまり:前の内容をまとめた結論が来る
  • たとえば:抽象的な説明を具体化する例が来る
  • 一方で:別の面や比較対象が提示される
  • したがって:前の根拠から導く結果が来る
  • さらに:同じ方向の情報が追加される

接続詞は、書き手にとっては論理を整理する道具であり、読み手にとっては理解の負担を減らす予告装置です。

接続詞を見れば「次に何が来るか」が分かる

しかし・つまり・たとえば・一方でが次の文章展開を予告することを示す図

文章理解は、書かれている情報を最初から最後まで受け身で積み上げる作業ではありません。読み手は、題名、見出し、語彙、接続詞などを手がかりに、次の展開を予測しながら読みます。

「しかし」があれば、前の主張をそのまま受け入れず、逆方向の情報を待つ。「たとえば」があれば、抽象的な話を具体例へ当てはめる準備をする。この予測が当たるほど、文章の処理は速くなります。

逆に、予告された関係と実際の内容が合わなければ、読み手は混乱します。接続詞の選択は、文章の見た目以上に論理そのものへ影響するのです。

「しかし」「ところが」「ただし」は同じではない

逆接を表す接続詞にも、役割の違いがあります。

しかし:前の内容に反対方向の情報を置く

この方法は費用が安い。しかし、完成まで時間がかかる。

前後を広く対立させる、基本的な逆接です。

ところが:予想に反する事実を出す

今日は空いていると思って店へ行った。ところが、入口には長い列ができていた。

話し手・読み手の予想が外れた驚きを含みます。

ただし:条件や例外を付け加える

館内は自由に見学できます。ただし、写真撮影は禁止です。

前の内容を全面否定せず、適用範囲を限定します。

接続詞を辞書的な「逆接」という一語で覚えるだけでは、こうした文章の動きは見えません。前後の情報をどのような関係として読み手に提示したいのかが選択の基準になります。

接続詞には「範囲」を示す働きもある

接続詞は、直前の一文と直後の一文だけを結ぶとは限りません。

「たとえば」は、一つの抽象的な主張のあとに、複数文からなる具体例を導くことがあります。「つまり」は、直前の一文だけでなく、数段落にわたる議論全体をまとめることもあります。「一方」は、文章の前半と後半という大きな二つのまとまりを対比できます。

そのため、接続詞を読むときは「何と何を結んでいるのか」を確認することが大切です。単語の直前直後だけを見るのではなく、段落や文章全体の構造へ目を広げます。

接続詞が多ければ分かりやすいのか

接続詞は便利ですが、多ければ多いほど良いわけではありません。

まず、調査を行いました。そして、結果を整理しました。さらに、会議で検討しました。したがって、方針を決定しました。

すべてに接続詞を置くと、文章が硬く単調になり、書き手が読み方を指示しすぎることがあります。文の順序や内容だけで関係が明らかな場合は、省いたほうが自然です。

一方、論理が転換する場所、誤読されやすい場所、長い議論をまとめる場所では、接続詞が有効です。ポイントは「入れるか省くか」ではなく、読み手が関係を推測できるかです。

接続詞を省ける文章の条件

次のような場合、接続詞がなくても関係が伝わりやすくなります。

  • 出来事が時間順に並んでいる
  • 同じ主語・話題が続いている
  • 原因と結果が常識的に明らかである
  • 段落の冒頭文が、その段落の役割を明示している
  • 語彙の反復や指示語がつながりを支えている

文章のつながりを作るのは接続詞だけではありません。語句の反復、代名詞・指示語、主題の継続、文末表現、段落構成などが協力して、読み手の理解を支えます。

「よい文章」は文法的に正しいだけではない

一文ずつが文法的に正しくても、文章全体が読みやすいとは限りません。前提が突然変わる、重要な情報が後ろへ隠れる、例と主張の区別がつかない、といった問題は一文文法だけでは説明できません。

石黒の文章研究は、よい文章を「誤りがない文章」だけでなく、読み手が情報の関係を追え、書き手の目的へ到達できる文章として捉えます。

これは、庵功雄の「やさしい日本語」ともつながります。言葉を簡単にするだけでなく、情報の順序と関係を明確にすることが「伝わる」を作ります。

英語の長文読解にも使える

英語にも、文章の展開を示すシグナルがあります。

  • however:反対・修正
  • therefore:結果・結論
  • for example:具体例
  • in other words:言い換え
  • on the other hand:別の面・比較
  • in addition:追加

これらを日本語訳だけで覚えるのではなく、「次にどの種類の情報が来るか」という機能で捉えると、長文の構造が見えやすくなります。

たとえば however を見たら、その後ろに筆者の本当に言いたい内容が置かれる可能性を考える。for example の後ろは主張ではなく、その主張を支える具体例だと区別する。接続表現は、英文を読む順路を示します。

英作文では「日本語を英訳する前」に関係を決める

英作文で接続表現を選べないときは、英単語を探す前に、二つの文の関係を日本語で確認します。

  1. 二つ目の文は、反対・結果・例・追加・言い換えのどれか
  2. その関係は、接続表現を明示しないと誤読されるか
  3. 一文にまとめるか、二文に分けるか
  4. 文頭・文中のどこに標識を置くか

関係が決まれば、buthoweversotherefore などの選択がしやすくなります。

さらに、M.A.K.ハリデーの選択体系機能言語学を合わせて読むと、言語表現は伝えたい意味と場面に応じた選択であることが見えてきます。

しゅみすけ(大山俊輔)

英文が難しいときは、一語ずつ訳す前に however や therefore を探してください。文章の向きが見えれば、知らない単語があっても全体像を保ちやすくなります。

石黒圭の議論への注意点

接続詞に注目すると文章構造が見えやすくなりますが、接続詞だけで筆者の意図を完全に判断することはできません。

同じ「しかし」でも、強い反論、軽い留保、話題転換などに使われます。小説や会話では、明示的な接続詞を省き、読み手に関係を推測させることも表現効果になります。また、分野によって好まれる接続表現や論証の進め方も異なります。

したがって、接続詞は答えそのものではなく、文脈を読むための強力な手がかりです。語の機能、前後の内容、文章ジャンルを合わせて判断する必要があります。

実践:文章を読むときの5つの手順

  1. 題名と見出しを見る:文章全体の話題を予測する
  2. 接続詞に印を付ける:論理の転換点を見つける
  3. 前後の関係を一語で言う:反対・理由・例・まとめなど
  4. 何と何を結ぶかを見る:一文同士か、段落同士か
  5. 接続詞を隠して確認する:なくても関係が分かるか、選択が適切か

英語や言語を研究してきた人物を、世界の言語学と日本の英学・翻訳・教育という二つの流れからたどる場合は、中間ガイド「言語を研究した人々|英語・言語学の歴史を変えた研究者・英学者」をご覧ください。

まとめ:接続詞は文章の「道路標識」

石黒圭の文章研究は、接続詞を暗記項目から、読み手の予測を助ける実用的な道具へ変えてくれます。

「しかし」は反対、「つまり」は結論、「たとえば」は具体例、「一方で」は別の面を予告します。読み手はその標識を使って、まだ見えていない文章の先を準備します。

大切なのは、接続詞をたくさん置くことではありません。書き手が情報の関係を整理し、必要な場所で読み手へ標識を渡すことです。この視点は、日本語の読解・作文だけでなく、英語の長文読解と英作文にもそのまま生かせます。

参考文献・関連資料

この記事を書いた人
しゅみすけ(大山俊輔)

b わたしの英会話および英語コーチングGRIT/be:RIZE代表。米国MBA取得、外資系企業4社での勤務経験を持ち、これまで多くの大人の英語学習を支援。日本語と英語の処理構造の違いに着目した「英語OS」の考え方をもとに、独学で伸び悩む人の学び直しをサポートしています。

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