ジョン・サールとは?発話行為の5分類と間接発話行為を英語例文で解説

ジョン・サールと発話行為の5分類(断定・依頼・約束・感情・宣言)

英語の文を見て、「これは疑問文だから質問だ」と判断したくなることがあります。しかし、Can you pass the salt? は、相手に能力があるかを知りたい質問というより、たいていは「塩を取ってください」という依頼です。

このように、私たちは文の意味を伝えるだけでなく、言葉を使って断定し、頼み、約束し、謝り、あるいは制度上の決定を下しています。この「言葉で何をしているのか」を体系的に分析したのが、アメリカの哲学者ジョン・R・サール(John R. Searle)です。

この記事でわかること
  • ジョン・サールが発話行為論をどう体系化したか
  • 発話行為の5分類と英語例文
  • 「言葉と世界の適合方向」とは何か
  • 間接発話行為が英会話で重要な理由
  • サールの理論の限界と注意点

ジョン・サールとは?

ジョン・R・サール(1932–2025)は、言語哲学・心の哲学・社会哲学で大きな影響を与えた哲学者です。1969年の著書 Speech Acts: An Essay in the Philosophy of Language では、言語を話すことを規則に支えられた行動として捉え、発話行為の構造を分析しました。

その出発点には、J.L.オースティンの発話行為論があります。オースティンが「言葉を発すること自体が行為になりうる」と道を開いたのに対し、サールは発話の力をどの基準で分類できるかをより明示的に整理しました。

しゅみすけ(大山俊輔)

オースティンが「言葉は行為である」と扉を開き、サールがその部屋の中を整理した、と考えると関係がつかみやすいです。

発話行為は「内容」と「力」に分けて考える

サールの考え方を理解する鍵は、発話にある命題内容発語内の力(illocutionary force)を分けることです。

  • You will close the door.(あなたはドアを閉めるでしょう)
  • Will you close the door?(ドアを閉めてくれますか)
  • Close the door.(ドアを閉めてください)

いずれも「あなたがドアを閉める」という内容に関係しますが、予測・依頼・命令という行為の力は異なります。サールは、言語コミュニケーションの基本単位を単なる文ではなく、話し手が文を使って行う発語内行為として捉えました。

サールによる発話行為の5分類

1976年の論文「A Classification of Illocutionary Acts」で、サールは発語内行為を主に次の5種類へ分類しました。日本語名には研究者による訳語の揺れがありますが、ここでは英会話とのつながりが見えやすい表現で整理します。

分類 話し手がすること 英語例
Assertives
断定・主張型
ある事柄を真であるものとして提示する It’s raining.
雨が降っています。
Directives
指示・依頼型
聞き手に何かをしてもらおうとする Please open the window.
窓を開けてください。
Commissives
約束・拘束型
話し手自身を将来の行為に関与させる I promise I’ll call you.
必ず電話すると約束します。
Expressives
感情表現型
ある状況に対する心理状態や態度を表す I’m sorry I’m late.
遅れてすみません。
Declarations
宣言型
適切な制度や権限のもとで、発話により状態を変える The meeting is adjourned.
会議を閉会します。

1.Assertives:断定・主張する

Assertives(サールの論文では representatives とも表現)は、世界がどうであるかを述べ、話し手をその内容の真理性に関与させる行為です。報告・結論・予測・主張などが含まれます。

I think this plan will work.
この計画はうまくいくと思います。

「絶対に真実だ」と保証するとは限りません。I think のように確信度を弱めても、世界について何かを提示する働きは残ります。

2.Directives:指示・依頼する

Directivesは、聞き手に何らかの行為をさせようとするものです。命令だけでなく、依頼・助言・招待・質問など、強さの異なる行為が含まれます。

Could you speak a little more slowly?
もう少しゆっくり話していただけますか。

丁寧な疑問文の形でも、会話上の働きは「答えを知ること」ではなく「相手に行動してもらうこと」です。

3.Commissives:約束・申し出をする

Commissivesは、話し手が将来の行為に自分を関与させる発話です。約束・誓約・申し出・拒否などが代表例です。

I’ll help you with the presentation.
プレゼンを手伝いますよ。

単なる未来予測ではなく、状況によっては「私がそうする」という責任を引き受ける申し出になります。

4.Expressives:感情や態度を表す

Expressivesは、感謝・謝罪・祝福・歓迎・お悔やみなど、前提となる出来事に対する話し手の心理的態度を表します。

Congratulations on your promotion!
昇進おめでとうございます!

ここでは、世界が真か偽かを説明したり、相手に行動を求めたりすることが中心ではありません。

5.Declarations:発話によって状態を変える

Declarationsは、適切な制度・手続き・権限が存在するとき、発話の成功そのものが社会的な状態を変える行為です。

You are hired.
あなたを採用します。

誰がどの状況で言っても採用が成立するわけではありません。採用権限を持つ人が適切な場で発話するなど、制度上の条件が必要です。

分類の基準:「言葉を世界に合わせる」のか

サールの分類は、動詞の一覧を仕分けただけではありません。重要な基準の一つがdirection of fit(適合方向)です。

適合方向 考え方 代表的な行為
言葉 → 世界 言葉を、現実がどうであるかに合わせる 断定・報告・説明
世界 → 言葉 世界を、言葉で示した状態へ変えようとする 依頼・命令・約束
適合方向なし 既に前提となる出来事への態度を示す 感謝・謝罪・祝福
双方向 適切な宣言によって、言葉と現実を同時に一致させる 任命・閉会・判決

たとえば、買い物リストは「世界をリストに合わせる」ためのものですが、購入後のレシートは「記録を世界に合わせる」ものです。同じ単語の並びでも、何のために使うかで適合方向が変わります。

間接発話行為:疑問文が依頼になるのはなぜ?

Can you pass the salt?で理解する間接発話行為の仕組み

Can you pass the salt? を文字どおりに捉えると「塩を渡す能力がありますか」という質問です。しかし食卓では、普通は「塩を取ってください」という依頼として理解されます。

このように、ある発話行為を行うことによって、別の発話行為も遂行するものを間接発話行為(indirect speech act)と呼びます。

  • 文の形:能力をたずねる疑問文
  • 直接的な内容:塩を渡せるか
  • 会話で意図された行為:塩を渡してほしいという依頼

英語学習では疑問文・命令文・平叙文という文型を覚えますが、実際の会話では文型と行為が一対一で対応するとは限りません。

しゅみすけ(大山俊輔)

英会話では「文法的に何文か」だけでなく、「相手はこの発話で何をしようとしているか」を見る必要があります。丁寧さや含みを理解する土台になります。

サールとグライスはどうつながる?

サールの間接発話行為を理解するには、ポール・グライスの協調の原理と会話の含意も役立ちます。

グライスは、聞き手が「なぜ今この言い方をしたのか」を推論して、言葉どおり以上の意味を受け取る仕組みを分析しました。サールは、そうした推論を含む会話の中で、話し手が直接には質問しながら間接には依頼するという行為の重なりを扱いました。

発話行為論から見える英会話の3つのポイント

1.同じ文でも文脈によって行為が変わる

It’s cold in here. は室温についての断定にも、窓を閉めてほしいという間接的な依頼にもなります。文だけでなく、場所・参加者・直前の会話を見る必要があります。

2.丁寧さは「遠回し=曖昧」ではない

Could you…?Would you mind…? は、命令を疑問文の形にすることで相手の選択余地に配慮します。形式上の意味と会話上の働きのずれが、丁寧さを作ることがあります。

3.発話の成功には社会的条件がある

約束には実行する意思や能力、謝罪には問題となる出来事、宣言には権限や制度が必要です。正しい英文を言うだけで、すべての発話行為が成功するわけではありません。

サールの理論の限界と注意点

発話行為の5分類は強力な整理枠ですが、すべての発話が迷いなく一つに入るわけではありません。

  • 複数の行為が重なる:警告は、世界についての断定であると同時に、相手の行動を促す場合があります。
  • 文脈と文化の差が大きい:何を依頼・謝罪・約束として受け取るかは、関係性や慣習によって変わります。
  • 話し手の意図だけでは決まらない:聞き手の理解、制度、会話の経緯も発話の成否に関わります。
  • 分類は分析モデルである:現実の会話を五つの箱に機械的に押し込むためのものではありません。

したがって、5分類は「正解ラベルを当てる問題」ではなく、発話がどんな目的を持ち、誰をどの方向へ動かし、どんな条件で成立するのかを考えるための道具として使うのが適切です。

まとめ:英語は情報だけでなく行為を運ぶ

ジョン・サールは、オースティンが開いた発話行為論を、分類基準と規則の観点から体系化しました。

  • 発話には命題内容だけでなく「何をするか」という力がある
  • 発話行為は、断定・指示・約束・感情表現・宣言の5種類に整理できる
  • 分類には、言葉と世界のどちらをどちらに合わせるかという基準がある
  • 疑問文が依頼になるように、文の形と会話上の行為は一致しないことがある
  • 実際の発話は文脈・文化・制度に依存し、複数の行為が重なることもある

英会話で相手の真意をつかむには、単語と文法だけでなく、「この人は今、言葉で何をしているのか」という視点が欠かせません。サールの理論は、その見方に明確な地図を与えてくれます。

参考文献・参考資料

この記事を書いた人
しゅみすけ(大山俊輔)

b わたしの英会話および英語コーチングGRIT/be:RIZE代表。米国MBA取得、外資系企業4社での勤務経験を持ち、これまで多くの大人の英語学習を支援。日本語と英語の処理構造の違いに着目した「英語OS」の考え方をもとに、独学で伸び悩む人の学び直しをサポートしています。

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