サミュエル・ジョンソンとは?1755年『英語辞典』と英語標準化を解説

サミュエル・ジョンソンとは?1755年『英語辞典』と英語を固定したのかを解説するアイキャッチ

「辞書に載っているから正しい」「辞書が英語のルールを決めた」。私たちは、つい辞書をことばの法律のように考えがちです。

そのイメージを強くした人物の一人が、18世紀イギリスの文筆家サミュエル・ジョンソン(Samuel Johnson、1709–1784)です。彼が1755年に刊行した『英語辞典(A Dictionary of the English Language)』は、英語史上もっとも影響力の大きい辞書の一つになりました。

ただし、ジョンソンが「最初の英語辞典を作った」「一人で英語を固定した」という説明は正確ではありません。この記事では、彼が何を成し遂げ、何を成し遂げなかったのかを、辞書の作り方と英語標準化の歴史から見ていきます。

しゅみすけ(大山俊輔)

辞書は英語を発明した本ではありません。実際に使われてきた英語を選び、整理し、説明した本です。

サミュエル・ジョンソンとは?

サミュエル・ジョンソンは、詩・批評・伝記・随筆など幅広い分野で活躍したイギリスの文筆家です。現在では「ジョンソン博士(Dr Johnson)」としても知られますが、その名を英語史に刻んだ最大の仕事が『英語辞典』でした。

18世紀のイギリスでは、印刷物と読者が増え、綴りや語義を共有する必要性が高まっていました。一方で、英語にはフランスのアカデミーのように言語を公的に統制する機関がありませんでした。そこで、語の綴り・意味・用法を大規模に整理する辞書が求められたのです。

1755年の『英語辞典』は何が画期的だったのか

ジョンソンの辞書以前にも英語辞典は存在しました。1604年のロバート・コードリー『A Table Alphabeticall』をはじめ、難語辞典や二言語辞典などが刊行されています。したがって、ジョンソンの辞書は「最初の英語辞典」ではありません。

画期的だったのは、約4万語に及ぶ見出し語を大規模に収録し、意味を整理したうえで、文学作品から集めた膨大な引用を添えたことです。シェイクスピア、ミルトン、ドライデンなどの文章が、語が実際にどのように使われていたかを示す証拠になりました。

単に「この語の意味はこれ」と宣言するだけではなく、用例によって意味を見せる。この点が、ジョンソンの辞書を強力な言語資料にしました。

ジョンソンは英語辞典をどう作った?

文学作品を読み、用例を抜き出し、意味を定義し、引用で使い方を示すジョンソン英語辞典の作り方

基本の流れは、文学作品を読み、重要な語が現れる箇所を抜き出し、語義を分け、定義と引用を組み合わせるというものでした。ジョンソンは書記たちの助けを借りながら、およそ8〜9年をかけて編纂しました。

この方法には二つの側面があります。

  • 記述的な側面:実際の文章を証拠にして、語の使われ方を記録する
  • 規範的な側面:どの綴り・意味・作家を採用するかを編者が選ぶ

つまり、辞書は使用実態を映す鏡であると同時に、何を標準として見せるかを選ぶ編集物でもあります。

ジョンソンは英語を「固定」しようとしたのか

編纂初期のジョンソンには、英語を保存し、変化を抑えたいという願いがありました。しかし1755年版の序文では、完全な固定は不可能だという現実的な認識を示しています。

社会や知識が変わり、人々が新しい表現を使う以上、ことばも変わります。生きた言語を永久に同じ形へ閉じ込めることはできません。これは現代の言語学にも通じる重要な視点です。

しゅみすけ(大山俊輔)

「辞書にないから間違い」とは限りません。新語や新しい用法は、まず人々の会話や文章に現れ、その後に辞書へ収録されるからです。

『英語辞典』は英語標準化にどう影響した?

ジョンソンの辞書は、綴り・語義・用例を参照する共通の基準として広く利用されました。その権威は長く続き、後世の辞書編纂や英語教育にも大きな影響を与えています。

ただし、英語の標準化は一冊の辞書だけで起きたのではありません。印刷、学校教育、出版市場、行政、文法書、他の辞書など、多くの力が重なった結果です。詳しい流れは「英語のスペルはどう決まった?綴りが標準化された歴史」でも解説しています。

また、イギリス英語とアメリカ英語の綴りの差には、後のノア・ウェブスターの辞書編纂も関わります。ジョンソンは重要な節目ですが、英語史の終着点ではありません。

ジョンソン辞典の限界

大きな功績がある一方、現代の視点では限界も見えます。

  • 引用資料が文学作品、とくに当時評価された作家へ偏っている
  • 日常会話、地域方言、労働者層などの英語を十分に反映していない
  • 語の採否や定義に、編者自身の価値判断やユーモアが入る
  • 刊行後も英語は変化し、新語や新しい語義が生まれ続けた

有名な機知に富んだ定義は読み物として魅力的ですが、同時に「辞書は完全に中立なデータベースではない」と教えてくれます。後の『オックスフォード英語辞典(OED)』は、より広い時代と資料から語の歴史を追跡する大事業へ発展しました。

英語学習者がジョンソンから学べること

ジョンソンの仕事から学べるのは、単語は日本語訳一つで完結しないということです。同じ語でも、文脈によって意味やニュアンスは変わります。

英語を学ぶときは、次の順番を意識すると理解が深まります。

  1. 辞書で中心的な意味を確認する
  2. 例文を読み、どの語と一緒に使われるかを見る
  3. 複数の文脈を比べる
  4. 実際の会話や作文で使い、自然さを確かめる

これは、ジョンソンが引用によって語の使われ方を示した発想とつながっています。

まとめ:辞書は英語を止めたのではなく、時代の英語を記録した

サミュエル・ジョンソンの1755年『英語辞典』は、最初の英語辞典ではありません。しかし、大規模な語義整理と文学的引用によって、英語辞書の権威と実用性を大きく高めました。

彼は当初、英語を安定させることを目指しましたが、最終的には生きた言語を永久に固定できないことも認めました。辞書は英語を止める装置ではなく、ある時代の用法を選び、記録し、次の時代へ渡す装置なのです。

参考資料

この記事を書いた人
しゅみすけ(大山俊輔)

b わたしの英会話および英語コーチングGRIT/be:RIZE代表。米国MBA取得、外資系企業4社での勤務経験を持ち、これまで多くの大人の英語学習を支援。日本語と英語の処理構造の違いに着目した「英語OS」の考え方をもとに、独学で伸び悩む人の学び直しをサポートしています。

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