
英会話の途中で間違いを直されると、「話の流れが止まってしまう」「自信をなくしそう」と感じる人がいます。一方、何も直されなければ「通じているから正しい」と思い込み、同じ誤りが定着するかもしれません。
第二言語習得研究が示す答えは、「直すか、直さないか」の二択ではありません。訂正フィードバックは平均的には学習を助けますが、効果は直し方、タイミング、対象となる誤り、学習者が訂正に気づくかによって変わります。
この記事では、明示的訂正、リキャスト、プロンプト、確認要求の違いを整理し、大人の英語学習者がレッスンでどのように訂正を受け取ればよいかを解説します。
しゅみすけ(大山俊輔)
Contents
訂正フィードバックとは?
訂正フィードバック(corrective feedback)とは、学習者の発話や文章に誤りがあったとき、相手が「その形には修正の余地がある」と伝える反応です。正しい形を直接示すこともあれば、学習者自身に言い直しを促すこともあります。
会話中のフィードバックは、単なる正誤判定ではありません。学習者に次の情報を与えます。
- 自分の表現と目標言語の間に差がある
- どの部分が相手に伝わりにくかったか
- より自然・正確な表現は何か
- 自分の力で修正できるか
これは、Schmidtの気づき仮説、Swainのアウトプット仮説、Longの相互作用仮説が交わる領域です。
研究では、訂正すると英語習得が進むのか
口頭訂正フィードバックを扱った研究の統合では、フィードバックを受ける学習者に学習上の利益があることが報告されています。Lyster & Saito(2010)のメタ分析は、教室での口頭フィードバックに有意な効果を見いだしました。また、Mackey & Gooの研究統合では、相互作用中の訂正フィードバックに即時テストで中程度、遅延テストでより大きな効果が報告されています(Lyster & Saito, 2010)。
ただし、平均的に効果があることは「誤りを見つけるたびに、すべて即座に直すべき」という意味ではありません。研究ごとに対象言語、年齢、習熟度、訂正の種類、測定方法が異なります。会話の流暢さを測るのか、特定の文法項目をテストするのかでも結論の見え方は変わります。
英会話で使われる4つの訂正方法

1.明示的訂正:誤りと正しい形をはっきり伝える
学習者が He go to work at eight. と言ったとき、講師が「ここは He goes です」と明確に示す方法です。何が誤りだったか分かりやすく、未知の規則や、本人だけでは修正できない項目に向いています。
一方、毎文これを行うと会話が細切れになり、意味より正確さへ注意が偏ることがあります。
2.リキャスト:正しい形で自然に言い直す
学習者の He go to work at eight. に対し、講師が Yes, he goes to work at eight. と返す方法です。内容を受け止めながら正しいモデルを示せるので、会話を止めにくいのが長所です。
ただし学習者が「訂正された」と気づかず、単なる相づちや繰り返しだと受け取ることがあります。リキャストの効果は、その明瞭さや焦点の絞り方にも左右されます(The Cambridge Handbook of Corrective Feedback)。
3.プロンプト:学習者自身に修正を促す
「He…?」「もう一度言えますか?」など、答えを直接与えずに言い直しを促します。すでに知っている形を取り出す練習になり、修正したアウトプットを作る機会が生まれます。
しかし、そもそも正しい形を知らない学習者には、考える時間だけが長くなることがあります。必要ならヒントから明示的訂正へ切り替えることが大切です。
4.確認要求:伝わらなさを知らせる
Sorry? や「どういう意味ですか?」と反応し、発音・語彙・文法のどこかに理解上の問題があると知らせます。学習者は相手に伝わる形へ発話を調整します。
これは現実の会話に近い反応ですが、何を直せばよいかが曖昧な場合もあります。必要に応じて「過去の話ですか?」のように焦点を絞ります。
リキャストとプロンプトは、どちらが優れている?
研究では両者が比較されてきましたが、「常に一方が勝つ」とは言えません。プロンプトは学習者による自己修正を促しやすく、リキャストは目標形のモデルを与えやすいという異なる働きがあります。
Ammar & Spada(2006)は、学習者の習熟度によってリキャストとプロンプトから得られる利益が異なる可能性を示しました(One Size Fits All?)。比較研究そのものにも設計上の難しさがあり、近年は「最強の一種類」を探すより、条件に応じた使い分けが重視されています。
| 状況 | 向きやすい対応 | 理由 |
|---|---|---|
| 学習者が正しい形を知らない | 明示的訂正・リキャスト | 目標形のモデルを渡せる |
| 知っているが会話で出てこない | プロンプト | 自分で検索・修正する練習になる |
| 意味が伝わらない | 確認要求 | 伝達上の問題に気づける |
| 会話の流れを保ちたい | 短いリキャスト | 内容を受け止めながら示せる |
| 同じ誤りが繰り返される | 会話後の明示的説明と再使用 | 焦点を絞って整理できる |
いつ直す?その場と会話後の使い分け
即時フィードバックは、発話と訂正の距離が近いため、何への反応か分かりやすいのが利点です。発音、目標文法、意味を妨げる誤りなど、その場で短く直せる項目に向きます。
遅延フィードバックは、話が一段落してから代表的な誤りを扱います。流暢さを重視するスピーチ、ロールプレイ、自由会話で有効です。ただし、時間が空きすぎると元の発話を思い出しにくくなります。
実践では、意味が通らない誤りや当日の目標項目はその場で扱い、それ以外はメモして会話後に2〜3点へ絞る方法が使いやすいでしょう。
全部の間違いを直さない方がよい理由
学習者の発話には、文法、語彙、発音、語用論など複数の課題が同時に現れます。すべて直すと、作業記憶が訂正で埋まり、話したかった内容を見失います。また、まだ習得段階にない形を何度説明しても、すぐ安定するとは限りません。
優先順位は次のように考えられます。
- 意味が伝わらない、または誤解を生む誤り
- レッスンで練習中の目標項目
- 本人が繰り返し使い、改善したい誤り
- 仕事や試験など、本人の目的に直結する誤り
細かな誤りを流すことは「正しいと認めた」という意味ではありません。限られた注意を、今もっとも学習価値の高い箇所へ配分する判断です。
学習者がフィードバックを活かす4ステップ
- 訂正だと認識する:講師の言い直しが聞こえたら、自分の表現との差を探す。
- 違いを短く確認する:「go ではなく goes ですか?」のように焦点を一つにする。
- その場で言い直す:正しい形を聞くだけで終わらず、自分の文をもう一度作る。
- 別の内容で再使用する:数分後や次回、別の主語・話題でも同じ形を使う。
訂正直後の一回の言い直しは「理解した」証拠にはなりますが、長期的な習得を保証しません。時間を空け、異なる文脈で再び取り出すことが重要です。
しゅみすけ(大山俊輔)
まとめ:訂正は「失敗の印」ではなく、次の仮説を作る材料
訂正フィードバックは、第二言語習得を助ける可能性があります。しかし、量が多ければ多いほどよいわけでも、リキャストなら常に優しいから最善というわけでもありません。
未知の形にはモデルを示し、既知の形には自己修正を促す。意味を妨げる誤りはその場で扱い、細かな誤りは会話後に絞る。そして訂正を受けた学習者は、正しい形をもう一度使う。この組み合わせによって、フィードバックは採点ではなく、学習を前へ進める情報になります。
よくある質問
ネイティブに間違いを直してもらえば、必ず正しくなりますか?
訂正を受けるだけでは定着しません。訂正だと気づき、違いを理解し、自分で言い直し、別の場面でも再使用する必要があります。また、ネイティブであることと、効果的に教えられることは同じではありません。
初心者もその場で訂正してもらうべきですか?
意味を妨げる誤りや、今習っている表現は短く直してもらう価値があります。ただし未知の項目を大量に指摘するより、伝達を支えながら対象を絞る方が処理しやすいでしょう。
訂正されると話すのが怖くなります
会話中に直す項目と、後でまとめる項目を講師と決めてください。「今日は過去形だけ直してください」のように焦点を限定すると、会話と正確さを両立しやすくなります。
参考文献
- Lyster, R. & Saito, K. (2010). Oral Feedback in Classroom SLA: A Meta-Analysis.
- Lyster, R., Saito, K. & Sato, M. (2013). Oral Corrective Feedback in Second Language Classrooms.
- Ammar, A. & Spada, N. (2006). One Size Fits All? Recasts, Prompts, and L2 Learning.
- Oral Corrective Feedback, The Cambridge Handbook of Corrective Feedback.










