鳥飼玖美子とは?国際共通語としての英語と「通じる英語力」

鳥飼玖美子と国際共通語としての英語を表す同時通訳のイラスト

英語を話すなら、アメリカ人やイギリス人のような発音を目指すべきだ。文法も語彙も、母語話者が使う自然な英語に近づくほどよい——。

それは一つの目標にはなります。しかし、世界で英語を使う人の多くは、英語を母語としない人たちです。日本人とタイ人、韓国人とドイツ人、ブラジル人とインドネシア人が、互いの第二言語として英語を使う場面は珍しくありません。

同時通訳者として国際会議の現場を経験し、のちに英語教育・通訳翻訳・異文化コミュニケーションを研究した鳥飼玖美子は、英語を「ネイティブの所有物」ではなく、異なる背景の人々が通じ合うための国際共通語として捉えてきました。

目標は、誰かの完全なコピーになることではありません。自分の考えを持ち、相手に届くように表現し、分からなければ聞き返し、言い換えながら理解を作ることです。

しゅみすけ(大山俊輔)

英語は、ネイティブらしさを採点してもらうための競技ではありません。相手と意味を作るためのことばです。発音も文法も、目的は「通じ合うこと」にあります。

鳥飼玖美子とは?

鳥飼玖美子(1946年生まれ)は、立教大学名誉教授で、英語教育学、通訳翻訳学、異文化コミュニケーション学、言語政策論などを専門とする研究者です。

上智大学外国語学部在学中から国際会議などで同時通訳者として活動。その後、コロンビア大学大学院で英語教授法を学び、サウサンプトン大学大学院で博士号を取得しました。立教大学では英語教育に携わり、異文化コミュニケーション研究科の設立にも深く関わりました。

長年にわたりNHKの英語番組にも出演・監修し、専門研究と一般の英語学習者をつないできた人物です。主な著書に『国際共通語としての英語』『本物の英語力』『話すための英語力』『英語教育の危機』『通訳者と戦後日米外交』などがあります。

同時通訳の経験が教えた、ことばの本質

通訳者は、聞こえた単語を順番に別の言語へ置き換えるだけではありません。話し手が何を意図し、誰に向かって、どのような関係のなかで語っているのかを理解し、聞き手に届く形へ組み直します。

同じ一文でも、会議の目的、発言者の立場、歴史的背景、声の調子によって意味は変わります。完全に対応する訳語がなければ、説明を補い、誤解を生まない表現を選びます。

この経験は、鳥飼のコミュニケーション観につながっています。コミュニケーションは、正しい英文を一方向に送信すれば完成するものではありません。話し手と聞き手が文脈を推測し、確認し、調整しながら意味を共同で作る過程です。

「国際共通語としての英語」とは

英語は母語話者だけのものではない

英語は、特定の国だけで使われる言語ではなくなりました。国や地域によって発音、語彙、表現の習慣には違いがあります。シンガポール、インド、フィリピン、ナイジェリアなどには、それぞれの社会で根づいた英語があります。

さらに国際的な場面では、英語を第二言語として学んだ人同士が、異なる訛りや文化的背景を持ったまま英語を使います。そこで米英の母語話者だけを唯一の基準にすると、現実の英語使用を十分に説明できません。

目標は「同じ英語」より「通じる英語」

国際共通語としての英語で重要なのは、どの国の発音に聞こえるかより、相手が聞き取れるかどうかです。これを英語では intelligibility(理解可能性、通じやすさ)と呼びます。

もちろん、発音はどうでもよいという意味ではありません。音の区別、語の強勢、文のリズムなど、理解に影響する部分は練習が必要です。ただし、母語話者と区別できないほどの再現を最終目標にしなくても、明瞭で通じる発音は身につけられます。

ネイティブの模倣から多様な英語と意味交渉へ進む学習の図解

英語が通じるかどうかは、話し手だけの責任ではない

従来の英語学習では、通じなかった原因を学習者の発音や文法の不足だけに求めがちでした。しかし実際の対話では、聞き手にも理解しようとする責任があります。

聞き取れなければ聞き返す。知らない表現なら意味を確かめる。相手の文化的背景を想像する。母語話者も、国際的な場面では速すぎる話し方や地域的な表現を調整する必要があります。

通じ合うために役立つのが、次のようなコミュニケーション・ストラテジーです。

  • Could you say that again more slowly?(もう一度、もう少しゆっくり言っていただけますか)
  • Do you mean …?(……という意味ですか)
  • Let me put it another way.(別の言い方をしますね)
  • What I’m trying to say is …(私が言いたいのは……です)
  • Could you give me an example?(例を挙げてもらえますか)

こうした確認や言い換えは、英語力が足りない人の応急処置ではありません。国際的な対話を成立させる、中心的な能力です。

「通じれば何でもよい」わけではない

鳥飼の議論は、文法や語彙を軽視するものではありません。発音は完璧と無頓着の中間を目指し、語彙を増やすために多く読み、文法もしっかり学ぶ必要があると説いています。

文法が大きく崩れると、誰が何をしたのか、いつのことか、事実なのか仮定なのかが伝わらなくなります。専門的・公的な場面では、誤りが発言者の信頼性に影響する場合もあります。

ただし、学ぶ目的は母語話者から「自然ですね」と褒められることだけではありません。伝えたい内容を明確にし、誤解が起きにくい形で届けるために、発音・語彙・文法を使うのです。

英語力だけでは異文化コミュニケーションにならない

英単語を知っていても、文化的な前提が違えば誤解は起きます。沈黙をどう受け取るか、意見をどの程度直接言うか、肩書きや年齢をどう扱うか、会議で反対をどう示すか。こうした違いは辞書だけでは解決できません。

鳥飼が重視する異文化コミュニケーション能力には、相手の背景を知る力だけでなく、自分の「当たり前」を相対化する力が含まれます。

相手を「○○人だからこうだ」と固定的に決めつけるのではなく、目の前の個人を観察する。分からない点は尋ねる。自分の意図も、相手に分かるよう背景から説明する。英語はそのための媒体であり、英語を話せるだけで異文化理解が自動的に完成するわけではありません。

複言語主義|英語だけにしない言語教育

鳥飼は、大津由紀雄らとともに、英語だけに偏った外国語教育を問い直し、複言語主義の重要性を論じています。

複言語主義は、すべての言語を母語話者のように話すことではありません。一人のなかに、日本語、学習中の英語、少し知っている別の言語、方言や専門語など、濃淡の異なる言語資源が共存していると考えます。それらを状況に応じて組み合わせ、学び続ける姿勢を重視します。

英語は世界で重要な言語ですが、英語だけが世界ではありません。英語以外の言語にも目を向けることは、文化の多様性を理解し、英語を絶対視しないためにも役立ちます。

しゅみすけ(大山俊輔)

日本語を持ったまま英語を使い、必要なら別のことばや図、身振りも使う。持っている資源を総動員して意味を作るのが、現実のコミュニケーションです。

大人の英語学習に生かす5つの方法

1.発音の目標を「米英そっくり」から「明瞭」に変える

録音して、子音、母音、語の強勢、区切りが聞き手に届くか確認します。訛りを消すことより、誤解を招く箇所を優先して直しましょう。

2.一つの内容を、二通りで言えるようにする

難しい単語が出ないときのために、簡単な語で説明する練習をします。refund が出なければ、get my money back と言える。言い換えは実戦的な英語力です。

3.確認表現を最初に覚える

会話を止めないためには、聞き返しや確認が必要です。「分からなかったら終わり」ではなく、「分からないことを英語で処理できる」状態を目指します。

4.多様な英語を聞く

米英の教材だけでなく、さまざまな地域の話者や第二言語話者の英語にも触れます。最初は聞きにくくても、実際の国際場面への適応力が育ちます。

5.英語で話したい中身を育てる

流暢さだけを追わず、自分の仕事、経験、地域、関心、価値観について考えます。話す内容があれば、必要な語彙や表現も明確になります。「英語を学ぶ」から「英語で何かを伝える」へ目的を移しましょう。

功績と、受け取り方の注意点

鳥飼玖美子の大きな功績は、同時通訳の実践、英語教育研究、異文化コミュニケーション研究をつなぎ、日本人の英語コンプレックスを社会的な問題として捉え直したことです。国際共通語としての英語という視点は、学習者を不完全な母語話者ではなく、正当な英語使用者として位置づけます。

一方で、「通じる英語」の基準は相手や場面によって変わります。旅行会話と国際交渉、友人との雑談と学術論文では、必要な正確さも異なります。また、国際共通語という理念があっても、英語母語話者や英語圏の制度が持つ力の差が消えるわけではありません。

だからこそ、通じれば十分と早々に学習を止めるのでも、永遠にネイティブを追い続けるのでもなく、自分の目的に合った明瞭さと正確さを選ぶ必要があります。

大津由紀雄・鈴木孝夫とのつながり

大津由紀雄は、母語を含む「ことばへの気づき」を英語教育の土台に置きました。鳥飼の複言語主義も、日本語を排除して英語だけを教えるのではなく、複数の言語資源を結びつける点で重なります。

鈴木孝夫は、英米人になるためではなく、日本の考えや文化を世界へ伝えるための英語を論じました。鳥飼の国際共通語論は、その発信を多様な話者との相互的な対話として発展させます。

さらに、岡倉天心が英語で日本文化を説明した実践も、「自分の背景を持ったまま世界へ語る」という点でつながっています。

英語や言語を研究してきた人物を、世界の言語学と日本の英学・翻訳・教育という二つの流れからたどる場合は、中間ガイド「言語を研究した人々|英語・言語学の歴史を変えた研究者・英学者」をご覧ください。

まとめ|英語を、自分のことばとして使う

鳥飼玖美子が示す国際共通語としての英語は、発音や文法を捨てた簡易英語ではありません。相手に届く明瞭さを磨き、伝える内容を持ち、分からないときには確認し、互いの違いを調整する英語です。

目指すのは、ネイティブの影になることではありません。日本語や自分の経験を持った一人の話者として、英語を使って世界の人と関係を作ることです。

完璧になるまで黙るのではなく、今ある英語で対話を始め、対話のなかで英語を育てていく。その姿勢こそ、国際共通語の時代に必要な「本物の英語力」といえるでしょう。

主な参考資料

この記事を書いた人
しゅみすけ(大山俊輔)

b わたしの英会話および英語コーチングGRIT/be:RIZE代表。米国MBA取得、外資系企業4社での勤務経験を持ち、これまで多くの大人の英語学習を支援。日本語と英語の処理構造の違いに着目した「英語OS」の考え方をもとに、独学で伸び悩む人の学び直しをサポートしています。

ご相談専門お電話番号

※『すぐに体験してみたい!』派のあなたには、<無料体験レッスン>WEB見た、で特典あり。

無料体験レッスン

※『すぐに体験してみたい!』派のあなたには、<無料体験レッスン>WEB見た、で特典あり。

無料体験レッスン

英語とは・英語の世界の一覧