
英語のthis・that・these・thoseは、日本語では「これ・それ・あれ」「この・その・あの」などと訳されます。しかし、英語と日本語では、目の前のものを指し分けるための座標が同じではありません。
英語は主に、対象が話し手の側に近いか遠いか、そして一つか複数かという二つの情報を組み合わせます。一方、日本語は「こ・そ・あ」によって、話し手・聞き手・両者から離れた領域を細かく分けます。
この記事では、this=これ、that=あれという訳語の暗記を超えて、英語がもの・人・出来事をどのような座標で指しているのかを、日本語と比較しながら見ていきます。
Contents
結論:英語は「距離×数」の2軸で指す対象を決める
this・that・these・thoseは、次の2×2の組み合わせとして整理できます。
| 話し手に近い | 話し手から遠い | |
|---|---|---|
| 一つ | this | that |
| 複数 | these | those |
- This book is interesting.:こちらの一冊
- That book is interesting.:あちらの一冊
- These books are interesting.:こちらの複数冊
- Those books are interesting.:あちらの複数冊
つまり英語では、対象を指すときに「近い/遠い」だけでなく、「一つ/複数」も同時に確定させます。これは英語が単数・複数を区別する仕組みの一部でもあります。
しゅみすけ(大山俊輔)
thisとtheseは「こちら側」、thatとthoseは「あちら側」
thisとtheseは、話し手が自分の側にあると捉えた対象を指します。thatとthoseは、話し手が自分から離れていると捉えた対象を指します。
| 話し手の捉え方 | 一つ | 複数 |
|---|---|---|
| こちら側・近い | this | these |
| あちら側・遠い | that | those |
ここでいう距離は、定規で測る絶対的な距離ではありません。同じテーブルの上にある二つの物でも、話し手が手に取っている物をthis、少し離して比較している物をthatと呼べます。指示語は、話し手が会話の場をどう区切っているかを表すのです。
日本語の「これ・それ・あれ」は3つの領域を持つ
日本語の代表的な指示語は、一般に「こ・そ・あ」の3系列で説明されます。
- これ・この:話し手に近い領域
- それ・その:聞き手に近い領域、または直前に出た内容
- あれ・あの:話し手と聞き手の双方から離れた領域
英語には、日本語の「それ」にだけ対応する独立した中距離の形がありません。話し手から見て近い側ならthis、離れた側ならthatを使うため、日本語の「それ」も状況によってthisにもthatにもなります。
| 場面 | 日本語 | 自然な英語の考え方 |
|---|---|---|
| 話し手が持っている | これ | this |
| 聞き手が持っている | それ | thatになりやすい |
| 二人から離れている | あれ | that |
| 二人で一緒に見ている資料 | これ/それ | 共有領域としてthisも可能 |
ただし、現実の会話では立ち位置、視線、手に持っているか、共同で注目しているかによって選択が変わります。「日本語のそれ=必ずthat」という一対一対応ではありません。

英語はなぜ「数」まで指示語に組み込むのか
英語の名詞句では、指している対象の数が文法上重要です。thisとthatは単数名詞、theseとthoseは複数名詞と組みます。
- this book
- these books
- that idea
- those ideas
指示語、名詞、動詞が数の情報を共有することもあります。
- This book is useful.
- These books are useful.
聞き手はthisやtheseを聞いた時点で、後ろに一つの名詞が来るのか複数の名詞が来るのかを予測できます。英語の指示語は、位置を指すだけでなく、名詞句全体の数を先に知らせる入口でもあります。
この仕組みは、英語が主語・動詞・代名詞などを一致させる理由ともつながります。
名詞の前にも、名詞の代わりにも置ける
this・that・these・thoseは、後ろに名詞を置く場合と、名詞なしで単独使用する場合があります。
| 働き | 例 | 説明 |
|---|---|---|
| 名詞を限定する | this bag | どのbagかを指す |
| 名詞の代わりになる | This is mine. | this自体が対象を指す |
| 名詞を限定する | those shoes | どのshoesかを指す |
| 名詞の代わりになる | Those are mine. | those自体が対象を指す |
伝統的な学校文法では、単独で使う形を指示代名詞、名詞の前で使う形を指示形容詞と呼ぶことがあります。現代的な文法では、名詞の前のthisなどを指示限定詞と分析することもあります。いずれの呼び方でも、対象を指し、その対象が近いか遠いか、一つか複数かを示すという中心機能は共通です。
前の記事で扱ったI・my・me・mineの役割の違いと同じく、英語では小さな語が名詞句の構造を見せています。
距離は物理的なものだけではない
thisとthatの対立は、実際の空間を超えて使われます。時間・会話・文章・心理的な距離にも広がります。
時間の距離
- this week:今を含む週
- that day:今から切り離して振り返る日
- these days:最近
- in those days:当時
会話・文章の距離
- Listen to this.:これから示す内容へ注意を向ける
- That was a good point.:相手や直前の発言を受ける
- What does this mean?:目の前の語句・現在注目中の内容を指す
心理的な距離
話し手が親しみや関与を感じる対象をthisで自分側へ引き寄せ、距離を置いて眺める対象をthatで示すことがあります。
- I love this song.:現在強く注目し、自分側へ引き寄せる
- I don’t like that attitude.:対象を離して評価する
もちろんthisが常に好意、thatが常に否定を表すわけではありません。重要なのは、距離が話し手による認知的な配置にもなり得るということです。
しゅみすけ(大山俊輔)
thatには接続詞・関係詞としての別の仕事もある
thatは、目の前の対象を指す指示語以外にも使われます。
- I know that she is busy.:接続詞として内容を導く
- the book that I bought:関係詞として名詞の説明を導く
- That book is mine.:指示語として対象を指す
同じつづりでも、文中の位置と後ろに続く構造が異なります。指示語のthatは「遠い側の対象」を指しますが、接続詞や関係詞のthatは、節を文へ接続する役割を持ちます。
関係詞の仕組みは、英語はなぜ関係詞を使う?説明を後ろから追加する仕組みで詳しく扱っています。
日本語訳を決める前に「話し手の座標」を見る
this・that・these・thoseを選ぶとき、最初から「これ・それ・あれ」のどれかへ置き換えようとすると迷うことがあります。英語では次の順序で考えると整理しやすくなります。
- 話し手は対象を自分側に置いているか、離れた側に置いているか
- 対象は一つか、複数か
- 物理距離か、時間・文章・心理的距離か
この三点を決めれば、近い一つはthis、遠い一つはthat、近い複数はthese、遠い複数はthoseとなります。日本語訳はそのあと、場面に合う「これ・それ・あれ」「この・その・あの」などを選べばよいのです。
まとめ:指示語は、会話の中に小さな座標を作る
英語のthis・that・these・thoseは、目の前の物を指すだけの語ではありません。話し手を基準に、対象を会話空間へ配置する仕組みです。
- this=近い・一つ
- that=遠い・一つ
- these=近い・複数
- those=遠い・複数
- 英語は近/遠の2系列、日本語はこ/そ/あの3系列を持つ
- 距離は空間だけでなく、時間・文章・心理にも広がる
- 指示語は名詞の前でも、名詞の代わりとしても使える
this・that・these・thoseを「四つの訳語」としてではなく、距離と数から対象を配置する座標として見ると、英語の指示の仕組みが一つにつながります。
代名詞全体の種類や基本的な使い分けを学びたい方は、be:RIZEの英語の代名詞とは?I・my・me・mineの使い分けと一覧もご覧ください。
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