
「彼は歩いて帰った」という日本語を英語にするとき、He walked home. と言うこともあれば、文脈によっては He went home on foot. とも言えます。「音楽を聴いて料理した」なら、She cooked while listening to music.。「風邪をひいて休んだ」なら、英語では because を使うほうが自然かもしれません。
日本語では同じ「〜て」が、移動の方法、同時進行、原因、出来事の順序まで表せます。なぜ一つの形が、英語では and・while・by・because などへ分かれるのでしょうか。
この違いを見る鍵が、言語学で副動詞(converb/コンバーブ)と呼ばれる仕組みです。
しゅみすけ(大山俊輔)
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副動詞(converb)とは?
Martin Haspelmathは、副動詞を大まかに「主として副詞的な従属を示す非定形動詞形式」として定義しました。
少し言い換えると、文の中心となる動詞ではなく、主節の出来事に対して「いつ」「どのように」「なぜ」「どんな条件で」といった状況を付け加える動詞の形です。
たとえば「音楽を聴いて料理した」では、文全体を言い切っている中心は「料理した」です。「聴いて」は独立して時制を言い切るのではなく、料理が行われた状況を付け加えています。このような働きを、世界の言語を比較するために副動詞という枠組みで捉えます。
- 定形動詞:時制・法・人称などを担い、主節を成立させる中心になれる
- 副動詞:主節に従属し、時間・様態・原因・条件などを付け加える
ただし「非定形」の現れ方や、どこまでを副動詞と認めるかは言語・研究者によって異なります。converbは、英語や日本語に最初から備わった伝統文法の品詞名というより、異なる言語の似た働きを比べるための比較言語学上の概念です。
日本語の「〜て」は代表的な副動詞なのか
『The Cambridge Handbook of Japanese Linguistics』では、日本語の非終止的な動詞形式をconverbとして扱い、テ形をその中心例の一つに挙げています。「食べて出かける」「笑って答える」の前半は、それだけでは文を完結させず、後ろの主たる出来事へつながります。
この意味で、日本語の接続用法のテ形は副動詞の代表例としてよく取り上げられます。ただし、すべてのテ形を一括して同じ構造とみなす必要はありません。
「食べている」では、テ形が補助動詞「いる」と結びついてアスペクトを作ります。「見てください」では依頼表現を作ります。今回焦点を当てるのは、主に二つの節・出来事を結び、前の動詞が後ろへ状況を足す用法です。
同じ「〜て」が表す4つの関係

1.同時進行:「〜しながら」
音楽を聴いて料理した。
この「聴いて」は、料理と同時に起きている背景動作として解釈できます。英語では次のように while や分詞節を使うのが自然です。
She cooked while listening to music.
Listening to music, she cooked dinner.
2.手段・様態:「〜することで」「〜して」
ハサミを使って箱を開けた。
「使う」は「開ける」ための手段です。英語では with scissors、by using scissors など、前置詞句やby+動名詞が選ばれます。
He opened the box with scissors.
日本語の副動詞的なつながりが、英語では必ずしも動詞のまま保たれるわけではありません。
3.原因・理由:「〜したので」
雨が降って、試合が中止になった。
この「降って」は、単なる時間順ではなく、中止になった理由として読めます。英語は因果関係を明確にするなら because を選びます。
The game was canceled because it rained.
4.継起:「〜して、それから」
朝食を食べて、家を出た。
二つの出来事が時間順に並んでいます。英語なら and then、after などで順序を明示できます。
He ate breakfast and then left home.
重要なのは、テ形そのものが常に「同時」「原因」「順序」のどれか一つを固定的に意味するわけではないことです。動詞の意味、主語、常識、前後の文脈から、聞き手が関係を推測します。
なぜ英語ではand・while・by・becauseに分かれるのか
| 日本語の関係 | 日本語例 | 英語で選ばれやすい形 |
|---|---|---|
| 同時 | 音楽を聴いて料理する | while / -ing |
| 手段 | ハサミを使って開ける | with / by -ing |
| 原因 | 雨が降って中止になる | because / so |
| 継起 | 食べて出かける | and then / after |
日本語は、比較的意味の薄い一つの接続形式に複数の関係を任せ、文脈に多くを預けます。英語は接続詞・前置詞・分詞節などを使い分け、関係を表面に出すことが多い言語です。
もちろん、これは「日本語は曖昧で、英語は常に明確」という意味ではありません。英語の He opened the door and walked in. でも、andだけで時間順や因果的なつながりを推測します。違いは白黒ではなく、どの情報を文法形式に明示しやすいかという傾向です。
英語にも副動詞はある?
英語には、日本語のテ形のように広範囲で規則的に使える一つの副動詞語尾はありません。しかし、機能面で近い非定形の副詞節はあります。
- Walking home, I saw Ken.(家へ歩いているとき)
- Feeling tired, she went to bed.(疲れていたので)
- Using this key, you can open the door.(この鍵を使えば/使って)
- Having finished dinner, he left.(夕食を終えてから)
英語の伝統文法では、これらを分詞構文・非定形副詞節などと呼びます。言語類型論では、主節を副詞的に修飾する非定形動詞という共通機能から、広い意味でconverb clauseとして論じられることがあります。
ただし、英語の-ing形=すべて副動詞ではありません。Swimming is fun. のSwimmingは名詞的、the swimming child なら形容詞的です。同じ形でも、文中でどんな働きをするかを見なければなりません。
連続動詞構文とは何が違う?
前回の連続動詞構文では、複数の動詞が明示的な接続要素なしで、一つの節・述語を作る仕組みを見ました。副動詞構文との違いは、次のように整理できます。
| 副動詞構文 | 連続動詞構文 | |
|---|---|---|
| 動詞間の関係 | 一方が主節へ従属する | 複数の動詞が一つの述語を構成する |
| 形式 | 副動詞専用の語尾・非定形を伴うことが多い | 明示的な接続標識を伴わないのが典型 |
| 日本語例 | 行って買う | 厳密には典型例ではない |
見た目にはどちらも「動詞が複数ある」構文ですが、文法的な組み立て方は異なります。英語で一文に動詞が複数現れる一般的な仕組みは、英語はなぜ一文に動詞をいくつも置けるのかでも解説しています。
世界の言語では副動詞が「物語の鎖」を作る
副動詞は日本語だけの珍しい仕組みではありません。トルコ語をはじめとするチュルク諸語、ウラル諸語、コーカサス、南アジア、東アジアなど、多くの言語で発達しています。
言語によっては、いくつもの副動詞節を連ね、最後の動詞だけが時制や法を担う節連鎖(clause chaining)が見られます。模式的には「起きて、顔を洗って、朝食を食べて、家を出た」のように、最後の「出た」が全体の時間的位置を確定する構造です。
トルコ語の研究では、副動詞が同時・先行などの時間関係だけでなく、目的、原因、条件、様態、手段、出来事の連続を表し、同じ主語を要求する形式と異なる主語も許す形式があることが示されています。つまり、副動詞体系は単なる「andの代用品」ではなく、出来事同士の関係を精密に組織する文法なのです。
しゅみすけ(大山俊輔)
英語学習では「〜て=and」を卒業しよう
日本語の「〜て」を見つけるたびにandへ置き換えると、意味は通じても関係がぼやけたり、不自然に長い英文になったりします。
私は駅まで歩いて行きました。
△ I walked and went to the station.
○ I walked to the station.
彼女は笑って答えました。
△ She laughed and answered.
○ She answered with a smile. / She answered, smiling.
電車が遅れて、会議に遅刻しました。
△ The train was delayed and I was late for the meeting.
○ I was late for the meeting because my train was delayed.
andが間違いとは限りません。しかし、まず「二つの動作」ではなく、主たる出来事と、それに足されている関係を見つけると、英語の選択肢が増えます。
まとめ:日本語は「て」に関係を預け、英語は形を選び分ける
副動詞とは、主節に従属し、時間・様態・手段・原因・条件などを付け加える非定形の動詞形式です。日本語の接続用法のテ形は、その代表例として広く研究されています。
「〜て」は、英語のandに一対一で対応しません。文脈に応じて while、with、by、because、after、分詞節、あるいは一つの単純な動詞へ訳されます。
ここにも、英語と日本語の大きな違いがあります。日本語が一つの短い形式と文脈に任せる関係を、英語は複数の文法装置に分担させる。「英語とは何か」は、こうした出来事の主従関係をどこに刻む言語なのかという問いからも見えてくるのです。
参考文献・研究資料
- Martin Haspelmath & Ekkehard König (eds.), Converbs in Cross-Linguistic Perspective
- Yoko Hasegawa (ed.), The Cambridge Handbook of Japanese Linguistics: Overview
- Kristin Killie & Toril Swan, “The grammaticalization and subjectification of adverbial -ing clauses”
- Ksenia Iefremenko et al., “Converbs in heritage Turkish: A contrastive approach”










