
「本を買いに行く」と言いたいとき、英語なら go and buy a book、日本語なら「行って、本を買う」のように、二つの動作の間を何かでつなぎます。ところが世界には、これに相当する意味を、接続詞も「て」も置かず、いわば「行く・買う」と動詞をそのまま並べて表す言語があります。
このような仕組みが連続動詞構文(serial verb construction / SVC)です。ただし、見た目が「動詞+動詞」なら何でも連続動詞構文になるわけではありません。今回は、世界の言語が複数の動作をどう一つの文に束ねるのかを、英語・日本語と比較しながら見ていきましょう。
しゅみすけ(大山俊輔)
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連続動詞構文とは?
連続動詞構文の定義には研究者による幅がありますが、比較言語学ではおおむね、次の特徴をもつ構文を指します。
- 二つ以上の独立した動詞が、一つの節の中に現れる
- 動詞の間に、明示的な等位接続詞や従属接続詞がない
- 全体が一つの述語のように働く
- 主語、目的語、時制・相・否定などを共有することが多い
たとえば「彼が行く」と「彼が魚を買う」を別々の文にせず、模式的に he go buy fish のような一つの節として組み立てます。これは英語訳を使った説明であり、英語の文そのものを示しているわけではありません。
よく「複数の動詞が一つの出来事を表す」と説明されます。実際、オーストラリア先住民言語の一つであるタリアナ語の研究では、複数の動詞が一つの述語として機能する点が重視されています。一方でMartin Haspelmathは、「一つの出来事」という直感だけでは言語をまたいだ判定基準として十分に明確ではないと論じています。つまり便利な入口ではあるが、それだけで定義を終えないことが大切です。
英語・日本語・連続動詞構文を比べる
| タイプ | 模式例 | 動詞のつなぎ方 |
|---|---|---|
| 英語 | go and buy | 接続詞 and を置く |
| 日本語 | 行って買う | テ形で前の動詞をつなぐ |
| 典型的な連続動詞構文 | go buy に相当 | 目に見える接続要素を置かず、一つの節にする |
日本語の「行って買う」は、意味の上では複数の動作をひとまとまりにします。しかし厳密な定義では、前の動詞に -て という接続の標識があるため、典型的な「接続要素なし」の連続動詞構文とは区別されます。日本語ではテ形を用いた複動詞的・副動詞的な構造として分析されるのが普通です。
英語の go and buy も and が見えるため、典型的な連続動詞構文ではありません。では Go get it. や Come see this. はどうでしょう。動詞が直接並ぶので連続動詞に似ていますが、英語全体を「連続動詞言語」と呼べるほど自由で生産的な仕組みではありません。英語学では bare verb coordination、擬似等位接続、serial-like construction など、分析も一様ではないため、ここでは連続動詞に似た限定的な型と考えるのが安全です。
連続動詞構文は何を表すのか

1.移動+行為
「行く+買う」「来る+見る」のように、ある場所へ移動してから行う動作を表します。英語や日本語では接続詞やテ形が必要になりやすいところを、言語によっては二つの動詞を直接並べます。
2.道具+行為
「ナイフを使う+果物を切る」のように、何を使って動作をしたかを表す型です。英語なら通常 cut the fruit with a knife と前置詞句で示す情報を、「取る/使う」に相当する動詞と「切る」に相当する動詞の連続で示す言語があります。
3.方向・経路
「箱を持つ+外へ出る」のように、物の移動と方向をまとめます。これは、英語が移動の様態や経路をどこに載せるかという移動表現の類型論ともつながります。同じ現実の移動でも、動詞、方向語、前置詞など、どの部品に情報を分担させるかは言語ごとに違うのです。
4.行為+結果
「たたく+壊れる」のように、行為とその結果を一続きに表します。ほかにも、原因と結果、授受、受益、相やアスペクトなど、連続動詞構文が担う機能は幅広く、言語によって許される組み合わせも異なります。
どの言語に見られる?
連続動詞構文は、西アフリカのエウェ語やヨルバ語、東南アジアの諸言語、中国語、オセアニア・パプア地域の諸言語、アマゾン地域の言語、さらに多くのクレオール語などで広く研究されてきました。ただし、これらの地域や言語に現れる「動詞の連続」がすべて同じ文法という意味ではありません。
たとえばエウェ語の連続動詞構文については、Max Planck Instituteの研究が、動詞の意味だけでなく、その言語の文法全体の中で構文を捉える必要性を示しています。また、アマゾン北西部のタリアナ語では、連続動詞と動詞複合の境界も詳細に研究されています。
語順だけを見ても、世界の言語は単純にSVOかSOVかで終わりません。まず世界の語順タイプを押さえ、その上で「一つの節に動詞をいくつ、どのように置けるか」を見ると、言語の設計が立体的に見えてきます。
「一語に詰める言語」と「動詞を連ねる言語」
前回取り上げた複統合語と名詞抱合では、英語なら一文になるほどの情報を、一つの長い語へ組み込む言語を見ました。連続動詞構文は、見た目にはその逆方向です。
- 複統合的な設計:多くの意味要素を一語の内部へ組み込む
- 連続動詞的な設計:独立性を保った動詞を一つの節の中に連ねる
ただし、これは世界の言語を二種類に分ける分類ではありません。一つの言語が複数の方法を併用することもあります。大切なのは、私たちが「一つの出来事」と感じるものを、言語がどの大きさの部品で、どこまで一体化して表すかです。
しゅみすけ(大山俊輔)
英語学習者にとって何が面白いのか
英語学習では「一文の動詞は一つ」と教わることがあります。これは初心者が定形動詞を見分けるための便宜的な説明であり、実際の英語には不定詞、分詞、動名詞、接続された動詞などが共存します。詳しくは英語はなぜ一文に動詞をいくつも置けるのかで整理しています。
連続動詞構文まで視野を広げると、疑問が一段深くなります。「動詞はいくつあるか」ではなく、どれが時制を担うのか、どの動詞が主語や目的語を共有するのか、複数の動作を一つの節として認定する根拠は何かを考えられるからです。
そして、英語の and、日本語の「て」は、単なる余分な飾りではありません。それぞれの言語が出来事の境目をどう示すかという、設計思想の一部なのです。
まとめ:言語は「出来事の束ね方」まで違う
連続動詞構文とは、複数の動詞を明示的な接続詞なしで一つの節・述語として組み立てる構文です。英語の go and buy、日本語の「行って買う」は意味こそ近くても、動詞同士を結ぶ仕組みが見えています。世界には、その接続を表面に出さず、動詞の並びそのものに担わせる言語があります。
「英語とは何か」を知るには、英語だけを凝視するだけでは足りません。世界の言語が同じ出来事をどのように切り分け、どのようにつなぎ直すのか。その違いを見たとき、英語の接続詞や動詞の制約も、初めて英語固有の選択として見えてきます。
参考文献・研究資料
- Alexandra Y. Aikhenvald, “Serial verb constructions and verb compounding”
- Martin Haspelmath, “The serial verb construction: Comparative concept and cross-linguistic generalizations”
- Felix K. Ameka, “Ewe serial verb constructions in their grammatical context”
- “Do serial verb constructions describe single events? A study of co-speech gestures in Avatime”










