
ロンドンの人が “Use your loaf!” と言ったら、「パンを使って」ではありません。これは loaf of bread が head と韻を踏むことから生まれた表現で、「頭を使って!」という意味です。
Cockney rhyming slang(コックニー・ライミング・スラング)は、ロンドン東部で生まれた、韻を使って別の言葉を表すスラングです。仕組みを知らないと暗号のように聞こえますが、ルールが分かると英語の音のおもしろさが見えてきます。
この記事では、ロンドン出身のLauraが子どもの頃から耳にしてきた表現も交えながら、意味、作り方、代表的な15表現、今のイギリスでの使われ方を分かりやすく紹介します。
Contents
コックニー・ライミング・スラングとは?
コックニー・ライミング・スラングとは、言いたい単語と韻を踏む別のフレーズに置き換える言葉遊びです。Cambridge Dictionaryも、ある単語の代わりに、その単語と韻を踏む語句を使うスラングと説明しています。
代表例は次のとおりです。
- stairs(階段) → apples and pears
- phone(電話) → dog and bone
- eyes(目) → mince pies
pears と stairs、bone と phone、pies と eyes が韻を踏んでいます。日本語の「韻を踏んだあだ名」に近い感覚ですが、日常の単語をまるごと別のフレーズに置き換えるのが特徴です。
Cockney(コックニー)とは?
伝統的には、ロンドンのセント・メアリー・ル・ボウ教会の鐘が聞こえる範囲で生まれた人をCockneyと呼びます。現在はより広く、ロンドン東部の労働者階級の文化や話し方を指すこともあります。
ロンドン博物館によると、ライミング・スラングが登場したのは19世紀。Cockneyはライミング・スラングだけでなく、音の発音や文法、通常のスラングなどを含む一つの方言文化です。
作り方は2段階|なぜ暗号のように聞こえる?
1. 言いたい単語と韻を踏むフレーズを作る
たとえば「階段」を表す stairs に対して、語尾が同じように響く pears を含む apples and pears を使います。
Go up the apples and pears.
階段を上がって。
2. 韻を踏む後半を省略する
ここが最大のポイントです。実際の会話では、意味を推測する手がかりになる後半を落として、apples だけでstairsを表すことがあります。
Go up the apples.
階段を上がって。
apples 自体は stairs と韻を踏んでいません。頭の中で apples (and pears) → pears → stairs とたどる必要があるため、知らない人には暗号のように聞こえるのです。
コックニー・ライミング・スラング代表表現15選
| 表現 | 省略形 | 意味 | 韻 |
|---|---|---|---|
| apples and pears | apples | stairs(階段) | pears / stairs |
| dog and bone | dog | phone(電話) | bone / phone |
| loaf of bread | loaf | head(頭) | bread / head |
| butcher’s hook | butcher’s | look(見ること) | hook / look |
| pork pies | porkies | lies(うそ) | pies / lies |
| trouble and strife | trouble | wife(妻) | strife / wife |
| plates of meat | plates | feet(足) | meat / feet |
| mince pies | minces | eyes(目) | pies / eyes |
| boat race | boat | face(顔) | race / face |
| Barnet Fair | Barnet | hair(髪) | Fair / hair |
| Rosie Lee | Rosie | tea(紅茶) | Lee / tea |
| bread and honey | bread | money(お金) | honey / money |
| tea leaf | tea leaf | thief(泥棒) | leaf / thief |
| China plate | China | mate(友達) | plate / mate |
| Ruby Murray | Ruby | curry(カレー) | Murray / curry |
表現や省略のしかたには、地域・世代・話者による違いがあります。上の一覧は「必ずこの形で使う」という文法表ではなく、代表的な対応関係として見てください。
会話で耳にしやすい定番表現と例文
Use your loaf.|頭を使って
Use your loaf. The answer is obvious.
頭を使って。答えは明らかでしょう。
loaf は loaf of bread の省略形で、bread が head と韻を踏みます。ライミング・スラングだと意識せず使われることもある定番です。
Have a butcher’s.|ちょっと見て
Come and have a butcher’s at this photo.
ちょっとこの写真を見に来て。
butcher’s hook → look というつながりです。have a look と同じように、have a butcher’s の形で使われます。
Tell porkies.|うそをつく
Are you telling porkies again?
またうそをついているの?
pork pies が lies と韻を踏み、porkies という形で広く知られるようになりました。ロンドン博物館も、一般の人が由来を意識せず使うほど定着した例として紹介しています。
Get on the dog and bone.|電話をかける
I’ll get on the dog and bone and call him.
電話で彼に連絡するよ。
dog and bone の bone が phone と韻を踏みます。昔ながらの響きがあり、冗談めかして使われることがあります。
Put the kettle on for a Rosie Lee.|紅茶を入れる
Put the kettle on. Let’s have a Rosie Lee.
お湯を沸かして。紅茶を飲もう。
Rosie Lee が tea と韻を踏みます。英国らしい題材のライミング・スラングです。
My plates are killing me.|足が痛い
I’ve walked all day. My plates are killing me.
一日中歩いたから、足がすごく痛い。
plates は plates of meat の省略で、meat が feet と韻を踏みます。
人名・固有名詞もスラングになる
ライミング・スラングは昔のフレーズだけではありません。有名人の名前を使った新しい表現も作られてきました。
- Ruby Murray → curry(カレー)
- Hank Marvin → starving(とてもお腹がすいた)
- Pete Tong → wrong(間違った、うまくいかない)
It’s all gone Pete Tong.
すべてうまくいかなくなった。
ロンドン博物館は、Ruby MurrayやHank Marvinに加え、1990年代の It’s all gone Pete Tong などを、ライミング・スラングが時代とともに更新されてきた例として挙げています。
Lauraが子どもの頃に聞いたコックニー英語
この記事の元になった話を紹介してくれたLauraの父親はCockneyです。Lauraは子どもの頃から、家族の会話でライミング・スラングを耳にして育ちました。
たとえば、treacle tart はsweetheart、skin and blister はsister、Adam and Eve はbelieve、brick and mortar はdaughterを表します。
ただし、ライミング・スラングは辞書に載った固定表現だけではなく、家族や地域で伝わる遊び心のある言葉でもあります。同じ意味に複数の言い方があったり、世代によって知っている表現が違ったりします。この「生きた言葉」である点が魅力です。
今も日常会話で使われる?
結論から言うと、すべてのロンドン市民が日常的に使うわけではありません。今も通じやすい表現、冗談として使われる表現、歴史的でほとんど聞かれない表現が混在しています。
ロンドン博物館が紹介する2012年の調査では、apples and pears を実際に使った人は10%、rabbit and pork を知っていた人は20%にとどまりました。若い労働者階級のロンドンでは、Cockneyなどにカリブ系やラップ、ダンスホールなどの影響が融合したMulticultural London English(MLE)が広がっています。
一方で、porkies、use your loaf、have a butcher’s のように、由来を意識せず使われる表現も残っています。さらに2024年には、ロンドン東部のQueen Elizabeth Olympic Parkで、伝統的・新作のライミング・スラングを題材にした作品が設置されました。消えた言葉というより、文化として継承されながら形を変えている、と捉えるのが自然です。
英語学習者は使っても大丈夫?
まずは聞いて意味が分かることを目標にしましょう。映画、ドラマ、パブでの冗談、ロンドンの文化紹介などで出会ったときに理解できれば十分です。
無理に会話へ入れると、古風に聞こえたり、Cockneyを大げさにまねている印象になったりすることがあります。使うなら、相手がその文化を知っていて、冗談が通じる場面が安心です。アクセントまで誇張してまねる必要はありません。
初心者でも言える簡単な英語への言い換え
| ライミング・スラング | 分かりやすい英語 | 意味 |
|---|---|---|
| Use your loaf. | Think! | 考えて! |
| Have a butcher’s. | Have a look. | ちょっと見て。 |
| He’s telling porkies. | He’s lying. | 彼はうそをついています。 |
| Call me on the dog. | Call me on the phone. | 電話して。 |
| Let’s have a Rosie. | Let’s have some tea. | 紅茶を飲みましょう。 |
| Look at my Barnet. | Look at my hair. | 私の髪を見て。 |
旅先で確実に通じさせたいなら、右側の普通の英語を選ぶのがおすすめです。
意味を当ててみよう|ミニクイズ
最後の単語と韻を踏む英単語を考えてみてください。
- frog and toad
- apples and pears
- dog and bone
答え:1. road(道)/2. stairs(階段)/3. phone(電話)
慣れてきたら、frog、apples、dog のように後半が省略されても元の意味をたどれるか試してみましょう。
よくある質問
コックニー・ライミング・スラングは普通のイディオムと何が違いますか?
イディオムは、複数の語がまとまって字面とは異なる意味を表す慣用表現です。ライミング・スラングは、目的の単語と韻を踏むフレーズで置き換えるという明確な作り方があります。広い意味では慣用表現の仲間ですが、音を使う仕組みが特徴です。
なぜ韻を踏む単語を省略するのですか?
省略すると、仲間内ではテンポよく話せる一方、知らない人には意味が見えにくくなります。歴史的な理由には諸説ありますが、「犯罪者が警察を欺くために作った」と断定するのは避けたほうがよいでしょう。地元の共同体で育った創造的な言葉遊びとして紹介する資料もあります。
アメリカ英語でも通じますか?
一般には通じにくいです。英国でも地域や世代によって理解度が異なります。国際的な会話では、phone、stairs、look など通常の単語を使うほうが確実です。
自分で新しいライミング・スラングを作れますか?
言葉遊びとしては作れます。ただし、韻を踏むだけでは既存のスラングとして通じません。共同体の中で繰り返し使われ、共有されて初めて意味が定着します。
まとめ
コックニー・ライミング・スラングは、言いたい単語を韻を踏むフレーズへ置き換える、ロンドン発祥の言葉遊びです。さらに韻を踏む後半を省略するため、知らない人には暗号のように聞こえます。
まずは apples and pears、dog and bone、use your loaf、tell porkies などから覚えてみましょう。積極的に使うより、「映画や旅行先で聞いたときに分かる」を目標にすると、英国英語とロンドン文化を無理なく楽しめます。
参考:London Museum: Talking Cockney、Cambridge Dictionary、Queen Elizabeth Olympic Park: Lemon Meringue










